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静岡

原発議論、先送りしないで 「永久停止」決議の牧之原市

2017年10月12日 紙面から

◆同日市長選でも争点ならず

浜岡原発の背後に広がる牧之原市(奥)。事故後、すぐに避難が必要な5キロ圏内には、1万3000人ほどが暮らしている=遠州灘上空で、本社ヘリ「あさづる」から

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 二〇一一年三月の福島第一原発事故以降、国政選挙で政党が主要な争点とするのを避けてきた原発政策。今回、小池百合子東京都知事率いる希望の党が三〇年までの原発ゼロを公約に掲げ、自民党との対立軸を示すが、有権者にどのように映るのか。中部電力浜岡原発(御前崎市)の周辺自治体の一つで、市議会が永久停止を決議し、衆院選と同日投開票の市長選を控える牧之原市を訪ねた。

 「原発が絶対安全ということはないから、避難については議論してほしいんだけど…」。茶畑の広がる市内の高台。原発構内に立つ排気筒を見ながら、豊岡地区の元区長(66)は険しい表情で語った。

 地区は、事故時にすぐに避難が必要な五キロ圏内に入り、約七百人が暮らす。「事故で故郷を離れたくないと思う住民は百パーセント」と言うが、原発政策への関心はいまひとつ。浜岡の再稼働は迫っておらず、実感が湧かないからだという。

 市や県の原発を巡る動きも、議論の低調さを招いている。一一年九月、市議会は浜岡原発の永久停止を決議。現職の市長も同調した。川勝平太知事は六月に三選を果たした直後、任期中は再稼働に同意しないと明言しており、再稼働に現実味がない状態が続いている。

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 一方で、こうした中にあっても、原発から十キロ圏内で楽器時計販売店の三代目を務める後藤高裕さん(67)=同市波津=は「全て廃炉にしてほしい」と声を上げる。浜岡原発は南海トラフ巨大地震の想定震源域に立ち、約六千五百体の使用済み核燃料も残ったまま。「過去に例のない災害に対応できるのか」と言う。

 全国を見渡すと、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)などすでに五基が再稼働した。牧之原市商工会の本杉芳郎会長は「電気代が値下げされて経済活動が活発化し、企業誘致もしやすくなる」と再稼働に賛成の立場だ。二日にあった市長選の公開討論会では、候補者三人ともが原発政策について言及しなかった。

 福島事故で、市内の茶農家は風評被害を受けた。だが、原発で働く市民に配慮し、廃炉を望む思いを口に出さない人たちもいる。今年の市民意識調査では、浜岡原発を「停止しておいたほうがよい」との回答が51%を占めた。それでも、後藤さんは「いつ風向きが変わるか分からない。自然や歴史豊かな故郷を失いたくない」と不安そうに話す。

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 市を含む2区は、原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける自民、原発ゼロをうたう一方で再稼働は容認の希望、原発ゼロと再稼働中止を掲げる共産の三候補が争う構図。後藤さんはこれまでの国政選挙で原発政策が大きな争点にはならず、悔しい思いをしてきただけに強く願う。「人の命に関わる問題を先送りにしてはいけない。原発ゼロは歓迎。選挙の票集めの文句とせず、必ず実行してほしい」

(古根村進然、佐野周平)

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