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静岡

幼児教育無償化 待機児童、まず解消を

2017年10月9日 紙面から

◆「国の借金も心配」母親ら複雑

 安倍晋三首相は衆院解散表明時の記者会見で、消費税を10%に引き上げて増収分を幼児教育の無償化にあてると訴えた。国の借金返済に回す分を減らして子育て世代に投資するという。十日公示の衆院選では多くの党が子育て支援策に幼児教育無償化を掲げるが、将来の負担を後回しにした人気取りのバラマキ色も強い。子育てに関わる県内の有権者は、どう見るのか。

 磐田市でママフォトグラファーとして活動する三上冬遊子(ふゆこ)さん(41)は「無償化は、やらないよりはいい」と思うが、保育料の高さより「預けられない不安の方が大きい」と待機児童の解消を注文する。

 週二回、自宅から車を十分走らせて、仕事場とは別の方向にある県西部の保育園の一時預かり施設に長男の弥琉(わたる)ちゃん(1つ)を預けている。その後、仕事場に向かうが、仕事の時間を惜しんで昼食を抜くことも珍しくない。

 国会でも取り上げられた「保育園落ちた」のブログの母親の気持ちは理解できる。地元の保育園はほぼ枠がなく、八園は直接お願いしたがかなわなかった。役所に駆け込み、ようやく今の施設へたどり着いた。

 一日一〜二時間から始めて徐々に増やし、やっと週二日に。週一日は義理の両親宅に預けるが、体力面の負担や通院もあって、これ以上は難しい。預け始めた当初は仕事の予定が立てられず、今でも「抑えるしかない。もっと預けてしっかり仕事したい」との思いがくすぶる。

 待機児童問題について「保育士不足がもともとにあるのでは。対価を払うのは当たり前で、保育士の待遇アップに回してほしい」と考える。無償化は将来の世代にツケが回ると聞くと、「国の借金を返す方が先では」とも思う。

 育休中の母親も複雑な胸中をのぞかせる。

 長男の優志ちゃん(1つ)が一歳になった今年八月での職場復帰を目指していた杉田由紀花さん(25)=浜松市南区=は、希望の市立保育園に落ちた。早く預けたいので、受け皿を増やしてほしいと願う。一方で、一戸建てが欲しいし、貯金もしたい。無償化は「ありがたい」と話す。ただ「そのお金はどこから出て、これから大丈夫なんですかね。みんなに子どもがいるわけではないし…」と手放しで喜べない。

 四月時点の全国の待機児童数は二万六千人。静岡県内は四百五十六人で、特定の保育所のみを希望するなど、定義から外れた「隠れ待機児童」も千七百六十四人に上る。安倍首相は五月、二〇一七年度末までの待機児童ゼロ目標を三年先送りした。公約では三十二万人分の新たな受け皿を作るというが、受け皿が増えれば新たな需要を呼び起こし、待機児童の解消はそう簡単ではない。

 保育業界の動きに詳しい「なごみこども園」(浜松市北区)の志賀口大輔園長(43)は、乳幼児期の質の高い教育が収入や学力を押し上げるとの研究があるとして、人口減少社会で「無償化」の投資効果は大きいと強調し、論戦が「子育てを社会で支えるという風潮につながれば」と期待する。「ただ、介護や医療とのバランスもある。政争の具になっているが、なぜ幼児教育か、科学的な根拠で説明し、社会で共有するのが大事だ」と話した。

(松本浩司)

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