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静岡

9条改憲 自衛官、被爆者の思い

2017年10月8日 紙面から

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 十日公示の衆院選で、自民党は憲法九条に「自衛隊明記」を掲げ、希望の党も九条を含めた「改正論議を進める」との姿勢だ。立憲民主党や共産党などは反対しているが、保守系二極が前向きで、選挙結果によっては改憲が一気に現実味を帯びる。憲法改正の是非が正面から問われる初の衆院選。さまざまな思いを抱えて九条と向き合ってきた県内の有権者らは今、何を思うのか。

 「ずっと抱えていたもやもやが、すっきりと晴れる気分だ」。自民の自衛隊明記の方針を報道で知った県内の現役自衛官は、そう語る。「例えば外国人が自衛隊を見たとき、誰が軍隊でないと言うのか。明記は当然」と力を込める。

 自民は公約の重点項目の筆頭に「北朝鮮への対応」を示した。「北朝鮮は常日ごろから『日本を攻撃する』と意思表示し、その能力も持っている。南シナ海では中国がやりたい放題。現実的な脅威だ」と話し、「もっと踏み込んだ具体的な北朝鮮対策を」と望む。

 衆院選で改憲論議が進むことは「やっとそういう議論が堂々とできるようになってきた」という感慨がある。一方で、希望の勢いを見て「国民が風に流されてしまう、今の状況で改憲に踏み切るのは危険だ」とも感じる。

 「自衛隊は『やれ』と言われたことに決してノーとは言えない。どこまでいっても、命令に従う存在だからだ」と自分たちの置かれた立場を説明した自衛官は、こう強調した。

 「自衛隊に命令を下しているのは政治家ではない。国民一人一人だ。そのことを忘れないでほしい」

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 「七十二年間、日本は九条に守られてきた」と護憲に強い思いを抱くのは、八歳のときに広島で被爆した県原水爆被害者の会会長の川本司郎さん(80)=静岡市清水区。「自衛隊明記は絶対に反対」と主張し、存在を明記することで「五兆円を超えるまでに増え続けている防衛費に、さらに歯止めがかからなくなるのでは」と影響を心配する。

 爆心地から二・一キロの鉄橋上で被爆したとき、土ぼこりで「昼が一瞬で夜になった」。戦争の記憶は、今なお手足に残るやけどの痕とともに刻まれている。北朝鮮など国際関係が不安定な今だからこそ、「軍拡競争に加わってはいけない。何のための九条か、考え直さなければならない」。

 一九七〇年に就職で移り住んだ静岡は、米国の水爆実験で被ばくした第五福竜丸の記憶から「広島、長崎に続く第三の被ばく県」と認識。「市民は誰よりも大きく、平和の声を上げなければいけない」と訴える。

 九条を守る活動を続ける浜松市の弁護士、塩沢忠和さん(71)も、現在の状況を「改憲発議の可能性は過去最大だ」と危機感を募らせる。

 希望の代表、小池百合子東京都知事については「安倍政権への不安、不満がたまり、小池さんなら何か変えてくれそう、と期待する声があるが、憲法観などは保守の考え方で、自民党とほとんど同じ。期待するのはおかしい」と語気を強めた。

(佐藤浩太郎)

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