滋賀
2017年10月15日 朝刊
前滋賀県知事の嘉田由紀子さんが無所属で出馬した滋賀1区。その知名度の高さに、過去二回連続で選挙区を制した自民前職大岡敏孝さんの陣営に危機感が走る。非自公勢力の結集を狙う野党共闘の動きも出たが、嘉田さんが一時、希望の党に「秋波」を送ったことで、社民新人の小坂淑子さんが急きょ出馬。野党が割れる結果となり選挙戦は混沌(こんとん)としている。
「『比例は希望』と言った話が広がっているが、どうか情報のアップデート(更新)をお願いします。私は無所属。比例は関係ありません」。嘉田さんが公示翌日の十一日、大津市の個人演説会であえて強調した。
嘉田さんは、引退した民進の川端達夫前衆院副議長の後継として、前原誠司代表から直接出馬を請われた。当初は希望の党に合流するつもりだったが、かつて党の代表を務めたことなどから公認見送りに。それでも、二日の出馬会見で「女性政治家として頑張ってほしい」と小池百合子代表を持ち上げ、「比例は希望と呼び掛けたい」と明言。その言葉は短期間で翻された。
希望は新規制基準への適合が認められた原発の再稼働を容認する。しかし、嘉田さんは現状で再稼働は認められないとの立場。考え方が違うことや、民進との合流をめぐるごたごたを理由に挙げ、一転、希望と距離を置き始めた。
こうした嘉田さんの態度の変化が野党共闘を狂わせた。二〇一四年の前回選では、旧民主と共産候補の得票を合わせると、自民を一万票上回る。それだけに最初から非自公勢力が共闘すれば議席を獲得できるという期待があった。
社民党県連代表の小坂さんは「野党統一候補で出るなら支持したい」と嘉田さんに申し出ていたことを明かす。だが、嘉田さんが一時、希望へ傾いたことから、共産や市民団体が護憲勢力の統一候補として小坂さんの擁立を決めた。「嘉田さんが希望と距離を置く決断がもっと早ければ…」と小坂陣営は複雑な思いだ。
二人を迎え撃つ大岡さんにとって、非自公票が割れることは有利といえる。だが、大岡さんは「ふわふわした浮動票を取る」と、嘉田さんの知名度を警戒。「風を見て言うことを変える。それが嘉田さんの選挙の強さ」と皮肉った。
大岡さんは、支援者の企業回りなどで地道に票を固めながら、街頭では「国と地元の市をつなぎ、地元の待機児童をゼロにした」と成果を訴える。狙いは嘉田さんを支えていた女性票の取り込み。混乱する野党への批判は封印し、「われわれ与党の実績は評価されている」とぶれずに戦う。