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滋賀

<湖国と安倍政治>(下)原子力防災 心細い避難路と想定

2017年10月9日 紙面から

 「土砂崩れで国道に行く道路が途絶されたら、孤立して避難できひんわ」。九月末、高島市で開かれた市民主催の原子力防災の勉強会。福井県近くの山あいに住む女性は、原発事故と同時に自然災害も発生した場合の不安を口にした。

 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故から来年三月で七年。被災地の復興や廃炉への取り組みが道半ばなまま、政府は野党の批判に目もくれず原発の新しい規制基準をつくり、再稼働にかじを切った。滋賀県の北にある若狭湾では、高浜3、4号機が再稼働し、大飯3、4号機が再稼働間近とされる。

 県では原発事故発生時、原発から最大四十三キロの県版緊急防護措置区域(UPZ)に暮らす住民に屋内退避を指示。放射性物質が大量に放出された場合、指定の集合場所からバスで避難するよう定めている。

 ところがバスに乗り込んでも安心には程遠い。福井県の若狭湾で原発事故が発生した場合、市民が避難のために南下する道路は主に国道161、367号の二本。ただ、ともに先に避難する福井県民の車などで渋滞するとみられる。

 さらに湖岸沿いの161号は大地震で液状化する可能性があり、のり面が険しい367号は豪雨時に土砂崩れが発生しやすい。実際、昨春の熊本地震では各地で道路が寸断された。

 地震以外でも、大雪など厳しい気象条件が重なったら、逃げ道がなくなる可能性も十分あり得る。今年一月に西日本を中心に襲った大雪では丸一日、161号が大渋滞になり、一時間に百メートルほどしか進まなかったという。

 このような状況から県は五月、大雪などで途絶しないよう複数の避難経路の確保を内閣府などに要望した。だが、内閣府の担当者は「渋滞時は近隣の避難所に行くことを勧めているが、その時その時使えるルートを判断するしかない」と人ごとのように語る。

 冒頭の勉強会に出席した中年の男性は「外国は福島事故を教訓に次々に原発を廃止している」と前置きした上で嘆いた。「原発事故が起きたら、その先に道はない。それは私たちの避難経路も、日本の針路もだ」

 (成田嵩憲)

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