滋賀
2017年10月7日 紙面から
ウェブ画面には、琵琶湖や里山、昔ながらの街並みが映し出される。どこにでもあるような風景。だけど懐かしい。「人が温かい」「食べ物がおいしい」。移住した人が寄せるコメントも、田舎暮らしに期待を抱かせる。
移住定住支援サイト「ナガハマキャピタル」。おしゃれなウェブデザインが目を引く。運営するのは、長浜市の移住定住促進協議会。国が進める「地方創生」を受け、市がまちづくり団体など民間とともに一年半前に立ち上げた組織だ。
サイトのほか、空き家をあっせんするバンクや見学会も担う。年四百万円超の活動費は全額、地方創生関連の交付金で賄う。その成果もあり、昨年度には協議会などを通じ、三十五人が市内に移住した。本年度も八月末時点で十八人に上る。
地方創生はもともと前回衆院選後、アベノミクスの果実が大都市圏の富裕層だけでなく、人口減や経済の縮小に悩む地方にも及ぶよう打ち出された。事務局を務める市民団体「いざない湖北定住センター」の相談員川村千恵さん(46)は「市との連携が深まり、取り組みが実を結んできた」と話す。
とはいえ、人口減少を押しとどめるにはまだまだなのが実情だ。人口十一万九千人の長浜市の状況は深刻で、ここ五年で、県内で最多の五千人が減った。二〇六〇年には八万五千人まで落ち込むとの推計もあり、十万人規模の維持を目標に据えている。
「地方創生は評価できるけれど、ばらまきの側面もある」と指摘するのは、中山間地にある田根地区の地域づくり協議会代表理事川西章則さん(70)。交流人口を増やして地域を元気にする取り組みで、十年前から先頭に立つ。
慶応大と共同で進める事業では、研究の一環でやってくる学生たちと一緒に、空き家の改修を進める。目標は、田舎暮らしを体験できるような場所。歩みはゆっくりではあるが、昨夏には首都圏から若者や退職者を招き、二泊三日の宿泊体験も催した。地元産の酒米作りや、ジビエのシカ肉を使ったハンバーガーなど、地域にお金が流れる動きも出てきた。
川西さんは「人口が減るのは仕方がない」とした上で問いかける。「故郷の魅力を知り、誇りを持ち、どう幸せに暮らせるか考える。国主導の交付金行政だけでは限界があるのでは」
地方を創生するとは何か。立ち止まって考える時期に来ている。 (渡辺大地)
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十日公示の衆院選は、野党再編で与野党対決の構図が大きく変わった。ただ、その影響で肝心の政策評価はかすんでいる。県内で抱える課題を通して、安倍政権が進めてきた政策を見つめ直した。