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連載

<届かぬ声 置き去りにされた有権者> (下)コラムニスト伊是名夏子さんに聞く

2017年10月6日 朝刊

「まずはみんなが使いやすい制度に」と話す伊是名夏子さん=川崎市で

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 ハンディがあるために一票を投じられない障害者や高齢の人たち。政治が最も守っていくべき当事者が声を上げられない現状と、制度の不備を放置し続ける政治の不作為を四、五の二日にわたって紹介した。社会のバリアフリー化が進む一方、投票制度・投票所は当事者の人たちにどう映っているのか。電動車いすで生活をするコラムニスト・伊是名(いぜな)夏子さん(35)にこれまでの投票体験や、望ましい投票制度や投票所について尋ねた。

 伊是名さんには、生まれつき骨が折れやすい難病「骨形成不全症」という障害がある。十人以上のヘルパーに支えられながら、四歳の男児と二歳の女児を出産し育てている。外出時には電動車いすで移動する。

 選挙は、ほとんど期日前投票を行ってきた。「投票所は普段よく行く市役所や区役所なので、勝手が分かり、バリアフリー設備も整っているから」

 一方、投票日の投票所となる学校などは、段差が解消しきれていないなど完全なバリアフリー仕様でない投票所も多いという。

 学生時代は、期日前投票所が電車に乗らないといけない場所だったため、投票日に地域の小学校で投票した。この投票所では、臨時のスロープの板が固定されておらず不安定だった。「私の車いすは重さ八十キロ。乗ったらグラッと動きそうで転倒してけがをしかねなかった。角度も急すぎ。下りも速度が出そうで、怖かった」と振り返る。

 そもそも普段行き慣れていない場所は「心理的なハードルも高い」と伊是名さん。というのも、複数の入り口が開放されていても車いすユーザーが使える入り口は限られていて遠回りする羽目になったり、車を駐車する場所を探す必要があったりするからだ。「投票前に考えなくてはいけないことが多すぎて、とても面倒。ショッピングセンターのような日常の場で投票させてほしい」と訴える。

 伊是名さんには、忘れられない投票体験がある。長男を妊娠中の二〇一三年七月の参院選でのことだ。入院していた香川県の大学病院で、院内投票ができた。この病院は県指定の不在者投票施設。入院患者が対象で、投票用紙の請求手続きはベッドの上で用紙に記入するだけで済み、後日、院内に設けられた「不在者投票所」で投票した。

 「複雑な手続きもなく、普通に投票に行くよりも簡単」と感激した。同時に、既存の投票制度の柔軟性のなさへの疑問も強まった。

 今の投票制度は、障害のある人や介護が必要なお年寄りにはハードルが高いと思う。「生命維持のため呼吸器を外せない人は外出できない。郵便投票や代理投票の制度もあるが、生きていくので精いっぱいの人たちに、手続きをする余裕が果たしてあるのか」

 伊是名さんは「障害者やお年寄りのためだけに」制度を整えるのでは不十分とする。世の中には、がん患者や妊婦、そしてその日たまたま疲れている人もいる。たとえ今は「健常者」であっても、将来は分からない。「一部の人だけを念頭に置くのではなく、あらゆる人が使いやすい投票制度にするべきだ」と主張する。

 鍵はITだ。インターネット投票を実現できないかと提案する。「鉄道のICカードもこの十年で定着した。同じようにセキュリティーや設備投資費用などの課題はきっと超えられる。選挙でもいろいろ試してみてはどうか」と話す。

 困難を抱える人、不満を持つ人にこそ、声を一票に乗せて投じられる環境が必要だと考える伊是名さん。「あらゆる人が使いやすい制度を整えた後、個々の人に合った方法を柔軟に認めるべきで、新たな投票方法の選択肢をつくってほしい」

 (今川綾音)

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