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<検証「加計」疑惑 総選挙を前に> (1)蜜月の首相、語らず

2017年9月21日 紙面から

 安倍晋三首相が二十八日召集の臨時国会冒頭で衆院を解散する見通しだ。加計(かけ)学園による獣医学部新設など安倍政権をめぐる一連の疑惑追及の機会が失われることになる。「安倍一強」がもたらしたとされる「加計疑惑」とは何か。解散・総選挙を前に、その背景を検証する。

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 東京出張の日程が急きょ変更になった。

 二〇一五年四月二日夕。帰りの航空機の便を遅らせて、愛媛県今治市の職員が首相官邸を訪れた。

 待っていたのは、柳瀬唯夫(やなせただお)首相秘書官(当時)。県職員と学校法人「加計学園」(岡山市)の幹部も同席した場で、県と市に学園の獣医学部新設を進めるよう対応を迫ったという。

 柳瀬氏は、安倍首相が創設した国家戦略特区を担当。アベノミクスの恩恵を全国に波及させるとして、地方創生につながる特区提案を近く募ることになっていた。

 今治市の文書には、この日の午後三時〜四時半、「獣医師養成系大学の設置に関する協議」のため、市の担当者が官邸を訪問した出張記録が残る。

 しかし、今年七月、国会の閉会中審査で、官邸での面会の事実を問われた柳瀬氏は「記憶にない」との言葉を連発。かたくなに面会を否定する政府に対し、県幹部も苦言を呈する。「何で国は隠すんですか」

 官邸訪問から二カ月後、県と市が特区を提案すると、十年にわたって膠着(こうちゃく)していた獣医学部の計画が一気に動きだす。

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 政府関係者は言う。「四月二日が『加計ありき』のキックオフだった」

 獣医学部新設が動きだすきっかけとなった国家戦略特区は、第二次安倍政権の目玉政策。これまでの構造改革特区は、自治体などの提案に対し、規制官庁も認定の可否に関わり、思うような成果が上がらなかった。そのため、規制官庁の関与は意見を聴くなどの調整にとどめ、首相のトップダウンで抵抗の強い岩盤規制の突破を図った。

 ただ、この対応は規制改革の実効性を高める半面、権力の私物化を招きかねない。国会では導入を巡り、「あらぬ国民の疑念を招くのでは」と制度の危うさが指摘されていた。

 その懸念が現実になった。「友人のために便宜を図り、行政手続きをゆがめたのでは」。特区で獣医学部新設が認められた学校法人「加計学園」の加計孝太郎理事長と、特区選定の最高責任者である安倍首相が昵懇(じっこん)だったことから、国民の間に疑念が膨らんだ。

 米国留学時代に知り合ったという二人。安倍首相は「加計さんが私に対し、地位や立場を利用して、何かを成し遂げようとしたことはただの一度もない」と答弁している。しかし、周辺の人たちの証言から浮かび上がるのは、二人の公私にわたる蜜月ぶりだ。

 獣医学部新設に関し、安倍首相は「国民から疑念の目が向けられるのはもっともなこと」と釈明しているが、国民の疑問に答えたとは言い難い。

 「事業者が決まった今年一月二十日に加計学園の獣医学部計画を知った」。七月の国会の閉会中審査で、疑念を振り払おうと安倍首相が発した一言は、かえって不信感を高めた。

 第二次政権発足後、確認できるだけで二人は、十六回ものゴルフや会食を重ねている。「腹心の友」と公言する加計氏の計画を本当に知らなかったのか。

 首相に近い自民党議員は言う。「首相の説明は、説明になっていない。この問題を解決するには、正直に話すしかない」

 <加計学園問題> 50年以上抑制してきた獣医学部の新設について、政府は今年1月、国家戦略特区で愛媛県今治市に限定して設置を認めた。公募の結果、加計学園が事業者に選ばれ、現在、文部科学省の審議会で審査中。5月、特区担当の内閣府が文科省に「総理の意向」などと早期開学を迫る複数の文書が流出し、特区選定の妥当性が疑われている。

情報公開請求に対し愛媛県今治市が公開した、2015年4月2日に首相官邸を訪問した出張記録。応対者は非公表だった=一部画像処理

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