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長野

<真の争点は−>(下)アベノミクス 「庶民には関係がない」

2017年10月6日 紙面から

 「売上高は右肩上がり。景気が良いということですかね」。軽井沢町で別荘を手掛ける老舗不動産業者の店で、若い男性従業員が笑顔を見せた。

 東京などからの別荘地需要が衰えない軽井沢は、山間部を抱える県内各地とは違い、地価の上昇が続く。九月中旬に発表された地価調査では、住宅地の平均地価変動率が六年連続でプラスとなった。

 不動産業者は、企業経営者や医師ら高所得層が主な顧客だと話す。七千万円以上の高価な別荘の売れ行きが好調。投資目的の購入も珍しくないという。「ここ二、三年は毎年業績が上がっています」

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 バブル崩壊後、下落を続けた県内の地価だが、今年は軽井沢町以外でも下げ止まりの兆候が出てきた。松本市は二十一年ぶり、塩尻市は二十年ぶりに住宅地の平均がプラスに転じた。

 調査に当たった不動産鑑定士はセイコーエプソン(諏訪市)が塩尻市に工場を移し、郊外の住宅需要が高まったことを要因に挙げる。一方、松本市で不動産店の店長を務める男性は「アベノミクスの効果は絶大ですね」と声を弾ませた。

 男性店長によると、三年ほど前から主に首都圏の投資家からアパート・マンション買い付けの問い合わせが急増した。昨年の日銀によるマイナス金利の導入後はさらに不動産売買が活発化し「小バブルの状態」だという。「数百億円買います どんな場所でもご連絡ください」などと書かれたFAXが店に一日十枚届いた日もあった。

 だが先行きには不安もちらつく。「消費税が10%に増税され、東京五輪が終わってしまうと、ダブルの追い打ちで経済が低迷するのでは…」

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 県内市街地の地価に改善が見られる一方、商業地は今年、百七カ所の調査地点で上昇した地点はなかった。

 大胆な金融緩和で円安をもたらしたアベノミクスは、大企業の収益や富裕層の収入が増えることで、したたり落ちるように国民全体に富が回る「トリクルダウン」が期待された。

 しかし富裕層が多いとされる軽井沢町でも、活気はまだら模様だ。老舗手芸品店で働く六十代男性は「いくら富裕層がいても、お金を落としてくれている実感はない」と語る。大勢の観光客が行き交う旧軽井沢銀座通りに店はあるが、売り上げは先細り。「アベノミクスも庶民には関係ない」と力なく笑った。

 南信地方で機械部品の町工場を営む四十代男性は「世間で言われている好況感はない」ときっぱり。従業員の賃上げは難しい経営状況で「今のままだと大企業が豊かになるだけ」とこぼした。

 イオンモール松本の開店で、経済活性化が期待された松本市の中心市街地。近くで菓子店を経営する男性(69)は「アベノミクスの効果は全く感じない」と言う。「地方のあり方や状況を考えた経済政策をしてほしい」と衆院選に期待を込めた。

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