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三重

<切なる願い> (4)働き方改革

2017年10月20日 紙面から

 「この日休んだら?」。松阪市の調剤薬局「はあと薬局鎌田店」では、こんな声掛けが増えた。「盆正月と病気のときに使うだけだった」有給休暇は月二回ほど取るようになり、職場の張り紙には取得日がびっしりと書き込まれていた。

 鎌田店を含めて県内で六店を運営するエムワン(同市)が働き方改革を始めたのは二〇一五年。政府が「一億総活躍社会」を掲げ、全国で機運が高まり始めた年だ。ただ、同社にはすぐに乗り出さなければならない事情があった。

 「募集はしとんのやけど、来ないんやわ」。人事部の柴田佐織課長(47)は、申し訳なさそうに現場の従業員に伝えた。地方の薬局はどこも慢性的な人手不足で、求人は新卒・中途とも応募はほとんどなかった。その上、従業員二人の妊娠が分かり、休暇に入ることに。やむにやまれぬ切羽詰まった状況で働き方改革を迫られた。

 二十〜三十代の女性五人がいた鎌田店も四人で回すことに。足りない薬を他店から分けてもらうために一人が外出すれば、たちまち人手が足りなくなった。さらに、働き方改革に向けた話し合いも開催。労働環境を改善するはずが、かえって重荷になった。当時から同店で働く出口舞さん(27)と西中由衣さん(28)は「挫折しそうになった」と振り返る。

 その中で見いだしたのが、業務の「見える化」だ。薬剤師と販売スタッフの間ですみ分けされていた業務を洗い出し、互いに協力できる業務をまとめた「スキルマップ」を作成。項目に挙げた仕事を全員ができるようにした結果、人員減でも売り上げ増を達成した。

 従業員らは有給休暇を活用し、子どもとの時間や旅行が増えた。仕事への取り組み方も変わり、職場体験などの社員提案の企画も生まれた。

 柴田さんは「働き方への意識を統一するまでが大変だった」と振り返る。店の責任者が積極的に周囲を巻き込んでくれたといい「一緒に進めてくれる味方がいたことが大きい」と話す。魅力ある職場になったことで、新卒採用の応募者も五倍に増えたという。

 三重労働局によると、県内の八月の有効求人倍率は一・六二倍で、バブル後期以来の高水準を維持している。人手不足による業務の見直しが必要な一方で、当初のエムワンのようにあまり手が回らない中小企業も多いのが現状だ。

 自身の経験から「社長と従業員の距離が近い中小企業こそ、働き方改革をすれば、きっと結果が出る」と語る柴田さん。「三重県に働きやすい企業が増えれば、若者も県内で働いてくれる。若者が外に出て行かないためにも、働き方改革は必要なんです」と訴える。

 ただ一方で、「制度だけ整えても、風土が変わらないと何も変わらない」とも。月末の金曜日に早めの帰宅を推奨する「プレミアムフライデー」も一時話題になったが、定着したとは言い難い。国を挙げて叫ばれる働き方改革。職場の実態に即した対応、支援策が求められている。

 (吉川翔大)

 =おわり

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