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三重

<切なる願い> (2)人口減問題

2017年10月18日 紙面から

 尾鷲市中心部から車で十五分ほど。山と海に挟まれた九鬼町の集落に古い木造校舎がある。二〇一〇年に休校した九鬼小学校。外壁は黒ずみ、玄関には南京錠がかかったまま。七十年前に卒業したという男性は「ここはもう駄目だろうね」とつぶやいた。

 県南部の尾鷲市の人口減少が止まらない。ここ三十年もの間、右肩下がりが続き、最大三万四千五百人いた人口は一万八千人近くまで落ち込んでいる。高齢化率は県平均28%に対し40%超。九鬼にいたっては65%だ。

 過疎高齢化はさまざまな面で暗い影を落とす。十代の男子二人が弓を射る「ブリ祭り」担い手問題もその一つ。主催の久木浦共同(ともどう)組合によると、二年連続で地元外の子どもに“出演”を依頼しており、それ以前も都市部から帰省した子どもに頼ってきた。同組合の田崎千里さん(64)は「昔は役の取り合いで、九鬼の男の子にとって名誉なことだった。町内の子どもで祭りができればいいんだけど」。表情は寂しげだ。

 老人会「明朗会」会長の川上則之さん(82)は「仕事がないから仕方ないが、都会に出る状況が続けば、いずれ誰も戻ってこなくなる」。こう嘆きつつ「市や県だけでは限界がある。国も本腰を入れて政策を打ち出してほしい」と訴える。

 九鬼唯一の干物店「浜千商店」を営む浜口千次郎さん(70)は「何十年も衰退が続く中では政治に期待が持てない」ときっぱり。七軒あった干物店も軒並み廃業に追い込まれた。「国への不満があっても個人の声は届かない。届いてたらこうなってない。政治家は何をやっているのか」とため息をつく。

 市民の力でてこ入れしようとする動きも。まちおこしに取り組むNPO法人天満浦百人会は、尾鷲湾を望む同市天満浦にある企業の保養所を買い取り、二〇一〇年にカフェと交流の場を兼ねた「天満荘」を開いた。松井まつみ代表(77)は「いきいき暮らすことこそ地域活性化。人口が減ったと嘆くばかりでは外の人は魅力を感じない」。合言葉は「天満浦をにぎやかな町にしよらい」。人口減少地域に暮らす住民の心意気もにじむ。

 市は過疎の進行に歯止めをかけようと、漁業従事者確保に向け一九九九年から漁業体験教室を展開。二〇一四年には移住促進を狙って空き家所有者と移住希望者をつなぐ「空き家バンク」を創設した。制度の成約は昨年度三十三件。側面支援する地域おこし協力隊にも期待がかかるが、小さな自治体でできることは限られている。

 市長公室の中川健一さん(42)は、移住者に対する国の支援を渇望する。現在あるのは空き家バンク登録者の不用品処分や清掃負担費四万円のみ。「今は住みたい場所を選ぶ時代。補助メニューが充実すれば強みになる」と展望する。ここでは政府が打ち出す「地方創生」の真価が問われている。

 (木村汐里)

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