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岐阜

<平成の票流>(5)農業 国の保護、当てにしない

2017年10月16日 紙面から

 辺り一面に広がる水田で、黄金色に実った稲穂が刈り取りを待っていた。コメを生産、販売する池田町の農事組合法人「白鳥ファーム」。二〇〇六年に設立され、栽培面積は百ヘクタール超。経営は安定してきたが、代表の竹中伸一(78)は「立ちゆかない農家も多い」と業界全体の苦境に気をもむ。

 約三十年前、作業の助け合いや機械の共同購入のため前身の組合を設立。当時は補助金も潤沢で、農家に余裕もあった。「コメは大事とか農地を守るとか、文化としてやっている面もあった」

 だが米価は右肩下がり。作るほど赤字になり、高齢化や後継者不足も進んだ。補助金依存から脱するには加工品の製造・販売など六次産業化が必要だが、設備投資や人材確保は簡単ではない。

 国が推奨する農地の集約化、経営の大規模化も限界がある。狭小な土地が分散し、作業効率は思ったほど上がらない。肥料や機械の燃料代など費用もかさむ。「政治家は農業が大事と言うが、実態が分かっていない」

 一八年から国はコメの生産調整(減反)を廃止する。補助金頼みだった農家に自立と競争意識を促すのが狙いだ。先の見通せない状況が続くが、悲観ばかりでもない。ブランド化や独自の販路開拓で利益を上げてきた自負がある。何より「日本人がコメなしで生きられるはずがない」と確信している。

 瑞穂市で甘柿の代表品種「富有」の生産・販売を手掛ける「せっきーファーム」代表の関谷英樹(38)は、多彩な取り組みで注目を集める。ハロウィーンのカボチャのお化け「ジャック・オー・ランタン」と柿の色が似ていることから考案した「ハロウィン柿」はテレビでも取り上げられた人気商品。菓子店などとコラボレーションしたり、PRにコスプレ姿で各地のマラソン大会に出場したりもする。

 「地元をPRする仕事がしたい」と一一年四月、東京のIT企業を辞めてUターン。特産品の富有柿に魅力を感じ、柿農家での研修を経て翌一二年に農地を借りて独立した。

 両親や知人には反対されたり、驚かれたりした。確かに環境は厳しい。国内の消費量は伸び悩み、廃業する同業者は多い。一人での作業には限界もある。それでも「十分に伸びしろがある産業と思っている」。

 近年の規制緩和の流れを歓迎し、環太平洋連携協定(TPP)にも賛成だ。「農業は保護されすぎだった。それでは成長しない」。付加価値を高められるかはアイデアと行動力次第。「成功事例があれば、就農者も増えるはず。そういう存在に僕がならないといけないと思っている」

 (文中敬称略)

◆減少続く就農人口

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 県内の就農人口は減り続けている。高度成長期以降に商工業が盛んになると、高い収入を求めて農村部から都市圏に人口が流出。2015年は約3万8000人で、1960年の約1割。平成の間だけでも5万人以上減った。

 農業産出額は、機械化による生産性向上や農産物の価格上昇で右肩上がりの時期もあったが、84年の1752億円をピークに減少を続けている。

 県は担い手育成のため、14年度にトマト農家を育成する県就農支援センターを海津市に開設。輸出も促進し、15年度は富有柿が約47トン、飛騨牛が約20トンと過去最高だった。

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