• 中日新聞ウェブ
  • 中日新聞プラス

岐阜

<平成の票流>(3)地場産業 内向きでは伝統守れぬ

2017年10月14日 紙面から

 アベノミクスが始まって五年。「中小零細企業には成果が出ていない」と、日本陶磁器工業協同組合連合会理事長の河口一(65)は肩を落とす。瑞浪市で製陶会社を経営し、百円ショップに陶器を卸しているが、一日千個あった売り上げはここ数年で三百個足らずにまで激減。「日用品の買い替え需要が止まっている」という。周囲では原料メーカーの廃業も目立ち、国内最大の陶磁器産地・東濃は、伝統技術の継承も危うい状況になっている。

 需要低迷の原因はさまざま。少子化に加え、プラスチック容器を使ったコンビニ食の拡大、社会保障の先行き不安もある。「今後、生活が苦しくなりそうというマインドや、老後に向け備えようとの気持ちが『いい器でご飯を食べたい』という消費行動につながらない」とみる。

 国内市場の低迷を受け、考えたのが「世界から和食文化を評価してもらうことで、日本人にも和の器の良さを再認識してもらう」ことだ。業界の若手を引き連れ、東南アジアなどで陶磁器のPR活動を始めた。内向き志向といわれる平成世代に、先行きの明るい新興国の市場を知ってもらう狙いだ。国には「中小企業や若者を応援する政策で、この殺伐とした雰囲気を打破してほしい」と要望する。

 作った分だけ、店に卸した分だけ売れた−。土岐市の製陶業「快山窯」の三代目になる営業担当、塚本英貴(31)は、そんな昭和のころの話を親の世代から聞いた。でも「うらやましさはない。業界が衰退している今しか知らないから」。

 塚本は、国内市場の縮小に危機感を持ち、海外に目を向け始めている若手の一人だ。重要無形文化財保持者(人間国宝)の故塚本快示を祖父に持つが、伝統的な和食器にこだわらず、インテリアなど新たな製品も模索。昨年から香港やパリなどの展示会に出品している。

 海外進出を決めたきっかけは、数年前に百貨店で行った営業活動だ。客の反応がほとんどなく「縮小する国内市場だけでは生き残れない」と痛感した。

 ただ同じ陶磁器産業で働く二十代、三十代の若手経営者や後継ぎの中で、海外に積極的に出ようとする人は多くはない。「皆、目の前のことで精いっぱいで、一歩を踏み出す気力がない。沈滞ムードが漂っている」

 海外への販路はまだまだ不十分で、売り上げも少なく、アベノミクスの円安の恩恵を感じるまでには至っていない。「地場産業を担うのは若手。国はその背中を後押ししてほしい」。代々、受け継いできた陶磁器の仕事とこの業界を、何とか守り続けたいと願っている。

 (文中敬称略)

◆陶磁器業界、苦境続く

写真

 岐阜県は全国シェア約5割を占める国内最大の陶磁器・タイル製品の産地として知られる。ただ出荷額は平成3(1991)年の2315億円をピークに減少しており、26年には4分の1近くにまで落ち込んだ。事業所数も同じ期間で3分の1にまで減っている。

 生活様式の変化や少子化による国内需要の減少、安い中国産製品の流入、経営者や職人の高齢化と後継者不足などが背景にある。業界や行政が産地再生に向け内需掘り起こしなどに取り組んでいる。

主な政党の公約

新聞購読のご案内