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福井

かすむ「原発ゼロ」 15基集中の福井2区

2017年10月16日 紙面から

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 二十二日投開票の衆院選で、原発再稼働を進める安倍政権に対抗し、希望の党が「原発ゼロ」を公約にしたことで原発政策が争点の一つとして浮上した。だが、廃炉中も含め全国最多の十五基が集まる福井県の若狭湾岸の選挙区では、希望と共産の野党候補は原発に依存する地域事情に配慮し、「ゼロ」を前面に出さない。事故を不安に思う住民の声も置き去りにされかねない。

 「安全最優先で再稼働していけばいい。原子力こそが日本の経済に、環境に、安定供給に資するんだ」。美浜町にある関西電力原子力事業本部の近くで、福井2区から立候補した自民の前職高木毅さん(61)が訴える。同本部は美浜、おおい、高浜町の計十一基の原発を統括する拠点だ。

 隣の敦賀市では既にもんじゅなど三基の廃炉が決定。残る敦賀原発2号機も直下に活断層があるとされ、廃炉の可能性がある。自民は公約で「原発依存度を可能な限り低減」とするが、高木さんは「新増設やリプレース(建て替え)も議論を始めないと」と低減どころか推進に意欲的。「二〇三〇年までに原発ゼロ」を公約にした希望を念頭に、「無責任なことを言う党に任せるわけにはいかない」と批判した。

 だが、その希望が擁立した元職の斉木武志さん(43)が、選挙戦で「ゼロ」を口にすることはほとんどない。前回選で原発ゼロを掲げた民主は高木さんに二倍近い大差で敗れている。

 「国策で増やしてきた原子力産業。代わる産業も国策でつくっていく」と敦賀市の街頭に立った斉木さん。別の産業誘致や、国に廃炉後の固定資産税を肩代わりさせる政策の訴えに力点を置く。市には年間十五億円前後の国の交付金が入り、電力会社の固定資産税も数十億円に上る。原発の立地四市町は一般会計予算の二〜六割をこうした原発マネーに依存し、原発は基幹産業と呼ばれる。

 斉木陣営を取り仕切る電力系労組の関係者は「ゼロになったら仕事がなくなる」と渋い表情。「軽々にゼロとは言えず、つらいだろう」と、公約と地域事情の板挟みに遭う斉木さんをおもんぱかる人もいる。

 地元のおおい町議を二十八年務めた共産新人の猿橋巧さん(63)は「原発ゼロ」と言うものの、まず口にするのは新産業の創出だ。これまでも原発反対を訴え続けてきたが、高浜3、4号機の再稼働に向けた動きが活発化した一五年の町議選で落選。議会に反対派は一人もいなくなった。

 国産材をふんだんにあしらったピカピカの高浜町役場前で、猿橋さんは「原発に頼らないまちづくりを目指そう」と語った。

 一一年の福島第一原発事故の影響で、六年半たった今も五万人以上の福島県民が避難している。若狭湾岸の住民にも事故時の不安は大きい。

 高浜原発の北側に位置する同町音海地区からは原発脇を通らないと避難できない。1、2号機の四十年超の運転に反対する意見書を出した地区の自治会長、児玉巧さん(70)は「どの候補も演説に来ず、地元の不安を考えてくれているのかどうか分からない」と嘆く。

 (衆院選取材班)

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