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福井

<混迷 衆院選ふくい2017>(上)自民 逆風吹き荒れる「王国」

2017年10月5日 紙面から

 九月二十一日、自民党員の男性宅に突然、一通の往復はがきが届いた。差出人は党県連。次期衆院選福井2区の「党公認候補者に関する党員意向調査」と書かれていた。「なぜ、こんなことに?」。男性は首をかしげた。

 2区の前職は高木毅(61)。しかし衆院解散の風が強まった九月中旬、県連会長の山本拓(65)=比例北陸信越=が急きょ、くら替え出馬の意向を表明した。国会関係者の一人は「大臣になるためには、小選挙区で当選しないと格好がつかないから」と理由を推測する。

 福井は前回衆院選で選挙区が三から二に減った。党本部の調整で、旧3区の高木が2区へ、旧2区の山本が比例へと回った。その後、高木は復興相に就任した。過去に女性の下着を盗み捜査されたとの疑惑を報じられたが、国会答弁などで事実関係を一貫して否定。公選法が禁じている選挙区内での香典支出問題も浮上した。

 県連内では「現職優先」との考えがある一方、有権者の支持を得られるのかという疑問は消えなかった。山本は県連執行部の一部に電話などで意向調査の方針を連絡。「時間がない」と組織決定を経ずに実行した。公認選定で権限を持つ幹事長の二階俊博の派閥に属しており、県連関係者は「党本部は意向調査の結果を優先するとの話だった。二階派の勢力拡大の一環で、党本部一任なら山本の公認が内々に決まっていたようだ」と明かす。

 公認申請を協議した二十六日の県連執行部会は、予想通り荒れた。調査手続きが不十分という会長への批判が相次ぎ、選挙態勢を不安視する声も上がった。その結果、調査内容は一切考慮されず、高木の公認申請が決まった。

 関係者によると、調査対象一万二千人のうち、返信があったのは約三分の一。結果は高木が四百票余りの差で上回っていたという。たとえ結果が示されても、高木の公認は揺るがなかったと言える。

 残ったのは「混乱」だけだった。公認争いの決着で表向きは「党員一丸」となったが、ベテラン県議は「大変な危機だ。山本の支持者は高木を応援しないだろう」と、党員分裂は不可避とみる。

 この騒動で県連最高顧問の辞任を表明した前参院議長の山崎正昭は「混乱の影響は2区だけでなく、1区にも及ぶ」と話す。1区の稲田朋美(58)は南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で、防衛相を辞任した。地元では写真撮影を求められるなど、依然として人気の高さがうかがえる。ただ別の県連関係者は「面従腹背。楽ではない」と語る。

 国政で連立を組む公明党県本部代表の西本恵一は「自公政権の枠組みは崩したくないが、正直1、2区とも有権者の理解が得られにくい。つらいところ」と本音を漏らす。

 希望の党と民進党が合流し、劇場型選挙の波も起き始めた。県連選対本部長代理の斉藤新緑は「福井は週刊誌注目の選挙区。票を落とすだけでなく、一歩間違えば危ういことになる」と見通す。「自民王国」に逆風が吹いている。

 =敬称略

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 十日公示の衆院選まで一週間を切った。突然の衆院解散に端を発した中央政界の混迷は福井にも波及し、自民党は県連内部の公認争い、民進党は希望の党との合流など懸念材料を抱えながら選挙に臨む。与野党の舞台裏に迫った。

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