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福井

稲田防衛相辞任、地元有権者「福井の恥」

2017年7月29日 紙面から

 稲田朋美防衛相(衆院福井1区)が28日、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で引責辞任した。政府や自民党の要職を重ね「将来の首相候補」と期待する声もあっただけに地元の落胆は大きく、有権者らから厳しい声が相次いだ。

 「辞めるのが遅すぎた。福井の恥だ」。JR福井駅近くを通り掛かった福井市の主婦山田まりこさん(63)は厳しく批判した。

 二〇〇五年の衆院選で初当選した稲田氏は「落下傘ではなく、福井のおっかさんです」と有権者に訴えた。地元産の眼鏡や繊維製品を熱心にアピールしてきたが、防衛相就任後にサングラスに野球帽という服装で海外の自衛隊活動視察に出発したりするなどして物議を醸したこともあった。山田さんは「身なりのことよりも、先に勉強すべきことがあったのでは」と話した。

 稲田氏が二十八日の会見で公表した特別防衛監察結果は、陸上自衛隊側から稲田氏に日報のデータ保管の報告があった可能性に言及したが、稲田氏は隠蔽への関与を否定しており、疑問は残ったまま。

 鯖江市の新聞配達員鈴木哲宏さん(64)は「最後まであいまいな説明に終始し、ふに落ちない部分が多すぎる。辞めるにしても潔くすべてを明らかにして辞めるべきだったのでは」と語気を強めた。金津高校二年の堤莉薫(りおん)さん(17)は「きっちり説明しているのではなく、逃げているだけだと思う。責任を取れる人じゃないと日本の防衛は任せられない」と声を落とした。

 稲田氏は東京都議選中に「自衛隊としてお願いする」と発言し、問題化した。福井市のIT関連会社経営、上野貴大さん(25)は「発言に大臣としての責任感が感じられない」と指摘。「女性が活躍する社会を目指す流れの中で、女性を任命したのは良かったが、稲田氏には実力が伴っていなかったのでは」と安倍晋三首相の人選を疑問視した。

 同市の設計会社経営森下真樹さん(43)は、稲田氏が防衛相に就任する前、地区の田植え行事や学校の運動会などで数回会ったことがあった。「最近の答弁は発言内容が二転三転していた。国民に正直に説明して再起を図ってほしい」と期待した。

◆支援者「初心に戻って」

 稲田氏の支援者からは「初心に戻って出直して」「また一緒に福井を盛り上げたい」と声が上がり、根強い支持は変わっていない。

 午前十時五十五分ごろ、福井市大手三の県繊協ビル内にある稲田氏の福井事務所では、秘書らがテレビで辞任会見を見守った。男性秘書は「昨日までは抗議の電話もあったが(辞任表明後は)むしろ支援の声が増えている」と話した。

 後援会「ともみ組青年隊」の山田直樹隊長(45)は、決断を前向きにとらえ「福井に帰りやすくなる。一から出直し、これまで通り福井を盛り上げたい」と気持ちを切り替えた。

 「最初の気持ちを忘れず、出直してほしい。支える気持ちは変わらない」。稲田氏の初当選時から自民党福井市支部女性部長を務める清水れい子さん(77)も、迷いなく話す。四月中旬に東京・市谷の防衛省を訪問し、稲田氏と面会した。「大臣になっても気さくで、接し方は同じだった」。稲田氏の将来性に触れ、次期衆院選でも福井1区からの出馬を願う。

 県産眼鏡は稲田氏のトレードマークだった。県眼鏡協会の竹内良造会長は「眼鏡は鯖江、繊維は福井、名刺は越前和紙という意識が強く、アピールはありがたかった」と説明。「辞任は残念だが、今までのキャリアを生かして引き続き活躍を」と期待した。

 稲田氏の後援会長を務める八木誠一郎さん(57)=フクビ化学工業社長=は「省のトップとして責任を取ることは正しい決断だったと思う。さまざまな意見を真摯(しんし)に受け止め、初心に帰って頑張ってほしい」とコメントした。

 (山本洋児、梶山佑、尾嶋隆宏)

◆自民「残念」 野党「当然」

 稲田氏が防衛相を辞任したのを受け、県内の各政党代表者はコメントを発表した。自民党は「残念」としたが、同じ与党の公明党は「仕方ない」と冷めた反応。民進党など野党は「当然」と切り捨て、衆院選でのライバルに「説明責任を果たしていない」と厳しい二の矢も浴びせる。

 自民党県連会長の山本拓衆院議員は「突然の辞任は極めて残念。防衛省・自衛隊のシビリアンコントロール(文民統制)の難しさを分かりやすい形で垣間見た思いだ」と、“ミス”には触れず、稲田氏を気遣った。

 公明党県本部の西本恵一代表は「不適切な発言」「国民の信頼を損なった」「防衛省内部の統制が乱れた」と稲田氏による混乱を列挙。稲田氏をかばう言葉はなく「辞任は仕方ない。もっと早く決断した方がよかった」と悔やんだ。

 一方、民進党県連の山本正雄代表は「防衛相としての資格に欠けた。辞任は当然」と手厳しい。国連平和維持活動(PKO)部隊の日報の組織的隠蔽(いんぺい)が、稲田氏に事前報告されていたかは解明されておらず「疑惑への説明責任を果たしたとは到底言えない」。辞任しても、説明責任は消えないと強調した。

 「辞任でなく(安倍首相から)即刻罷免されるべきだった」と批判するのは共産党県委員会の南秀一委員長。社民党県連の龍田清成代表は「公人は判断に厳格さを求められ、多くの国民と目線を同じにすべきだ。この人の基準がズレていた」と、稲田氏の感覚に問題があるとした。

 (尾嶋隆宏)

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