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有権者、判断基準は 約4万人の出口調査分析 

2017年10月23日 紙面から

 安倍政権への評価が問われた衆院選で、有権者は何を判断基準に投票先を決めたのか。本紙は二十二日、中部八県(愛知、岐阜、三重、長野、福井、滋賀、石川、静岡)の三十選挙区で、計約四万人を対象に出口調査を実施。自民は全世代で浸透し、三十代以下の若者層では目立って支持が高かった。ただ、首相が目指す憲法九条の改憲に対しては、全体の約四割が「変えない方がいい」と回答。改憲に慎重な有権者が依然、多いことがうかがえた。

◆9条 「変えない」優勢

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 安倍首相が「自衛隊の存在明記」を目指す憲法九条については、「変えない方がいい」(39・3%)が、「変える方がいい」(27・2%)を大きく上回った。

 比例投票で自民に投票した有権者に限ると、40・8%が「変える方がいい」と回答。ただ、23・5%は「変えない方がいい」と答えており、自民支持層でも九条改憲に反対する人は少なくはない。

 一方、「変えない方がいい」と答えた人のうち33・0%は、九条改憲に反対している立憲民主を投票先に選び、11・6%が共産に投票していた。だが、20・1%は九条改憲を公約で「議論の対象」と位置づけた希望に、19・9%が自民に投票しており、九条改憲に反対する人の一定割合が改憲に前向きな政党を支持していた。公明は6・7%、維新4・8%、社民2・1%だった。

 「変える方がいい」と答えた人では、ほぼ半数の49・9%が自民に投票し、希望の17・9%が続いた。立憲民主は10・8%、公明8・4%、維新7・8%だった。

◆政策 1位「教育」

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 有権者が投票先を選ぶ際に重視した政策は分散していた。判断基準となった政策を二つまで挙げてもらうと、トップは「教育、子育ての充実策」の21・1%(八千五百十八人)で、「北朝鮮問題への対応」が20・8%(八千三百七十六人)で続いた。

 「教育、子育ての充実策」を挙げた人のうち、比例投票先で自民を選んだのは四割弱、「北朝鮮問題」との回答者でも半数強に上った。重要政策として三番目に多かった「消費税増税への対応」(19・1%、七千六百八十六人)でも、三割弱が自民に投票しており、幅広い分野で自民の政策が支持を得た形だ。

 一方、重要政策として四番目の17・2%(六千九百二十一人)だった「憲法に対する姿勢」、五番目の16・6%(六千七百二人)の「原発ゼロへの姿勢」では、いずれも立憲民主が比例投票先のトップで、三割強が票を託していた。森友・加計学園問題などで問われた「首相の政治姿勢」は六番目の関心を集め、こちらも立民を比例投票先に選んだ人が最も多かった。

 広告大手電通の違法残業による過労自殺事件をきっかけに議論が本格化した「働き方改革の取り組み」を重視した人は7・5%(三千二十九人)で、大きな注目を集めなかった。

◆10〜30代 4割が自民支持

 比例の投票先は、すべての年代で自民がトップを独占し、圧勝を印象づけた。とりわけ十〜三十代の有権者の四割が自民に投票しており、若者の圧倒的な支持が勝利の要因といえる。一方、野党側は民進の事実上の解体で、希望と立憲民主に分かれた結果、政権批判票も二分した。

 選挙権が十八歳以上に引き下げられて実施された初の衆院選。十八、十九歳の43・4%が自民に投票し、他党を大きく引き離した。自民支持の割合が最も高かったのは二十代で、47・1%を占め五割近くに達した。自民圧勝の傾向は三十代も同様で、十〜三十代では自民に投票した割合がいずれも旧民進(立憲民主と希望)の合計を上回った。

 一方、四十〜七十代では、立憲民主に投票した有権者の割合が上昇し、二割前後を占めた。安倍晋三首相の経済政策アベノミクスで広がった格差の是正を訴え、六十代では24・5%と、自民の27・8%と拮抗(きっこう)した。

 男女別でも、男性全体の36・3%、女性全体の30・0%の有権者が自民に投票し、いずれもトップだった。

 中でも二十代の男性は52・4%が自民で、半数を超える支持を得た。

 小池百合子代表が女性の活躍を前面に打ち出した希望は、女性全体の投票先の20・3%を占め、男性全体の17・9%を上回った。ただ、女性に限っても、五十〜七十代では自民、立憲民主を下回り、支持の広がりに欠けた。

◆若者、ホンネは? 増税を「評価」/経済政策「恩恵」

 本紙出口調査では、十、二十代の五人に二人以上が比例で自民に投票していた。なぜ、自民を選んだのか。各投票所で若者に理由を尋ねた。

 「人口も働く世代も減っていく中で、早いうちに財源を確保した方がいいと思った」

 愛知県稲沢市の看護師尾関福子さん(26)は、二〇一九年十月に予定される消費税増税を自民が公約に掲げたことを挙げた。ただ、安倍政権が表明した増税分の使途変更には不満。膨らみ続ける国の借金の返済分を減らすと、将来世代の重荷にならないか不安で「まずは国の借金返済に充てるべきではないか」と話す。滋賀県彦根市の大学一年藤畑有希さん(19)も「国の財政が苦しい中、増税したほうがいい」と語った。

 安倍首相の看板政策「アベノミクス」の恩恵を感じた学生も。今年の就職活動でIT系の会社に内定を得た名古屋市熱田区の大学四年、秋山遼太郎さん(23)は、就職活動の状況が「よかった」といい、安倍政権の継続を望む。森友・加計学園問題など、政権への批判はその通りだと感じたが、「批判と実績をてんびんにかけて」選んだ。

 一方、「消去法」で選んだのは、岐阜県各務原市の無職戒田亜佐美さん(27)。選挙区で名前を知っていたのは自民党の候補者だけで、「共産とは考えが違うし、希望は最近できた党で政策が実行できるか分からない。どの党も応援しがたい」と消極的な理由だった。

 候補者の人柄で選んだという三重県松阪市の会社員、宮下瞬さん(25)は、地元青年団の団長を務めており、「青年団の行事や地元の祭りを見に来てくれて、地元の力になってくれている」と話した。

◆将来悲観 「現状維持」望む

 <山田昌弘・中央大教授(社会学)の話> 今の生活にそこそこ満足で、将来に悲観的な若者は、保守化してしまう。「現状維持」を望む多くが結果的に、自民を選んだとみるのが妥当だろう。

 小泉改革時の一連の選挙で、現状打破を望む若者が積極的に自民に投票した時とは状況が違う。その後の旧民主党による政権交代でも社会は良くならず、若者は政治に希望が持てなくなった。変化に期待しなくなっている。それが今の姿と感じる。

 その意味では、若者みんなが改憲を望んでいるわけではないはずだ。戦争の可能性が高まると困るのは自分たちだと知っている。

 今選挙では各党とも、教育無償化など若者向け政策を掲げたが、内容はほぼ横並び。新しい社会のモデルも提示できなかった。これで若者に希望を持てというのが、無理な話だろう。

 (衆院選取材班)

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