台風２１号が列島に近づいた二十一日、衆院選挙戦の最終日を迎えて候補者が「最後のお願い」を叫ぶ街で、有権者が長蛇の列をつくった。この日、受け付けが締め切られた期日前投票所。二十二日の各地の予報は激しい雨で、荒天を避けて一票を投じる有権者が異例の数で詰めかけた。ただ、待ち時間の長さから投票を諦める人もおり、「台風が来る前に投票を」と呼び掛けた選挙管理委員会は、予想を上回る混雑への対応に追われた。　

　午後三時、名古屋市の緑区役所。庁舎の二階にある投票所から延びた行列が一階フロアまで続き、午後五時ごろにかけて百人以上が並び続けた。区選管の担当者は思いもよらぬ事態に「十年近く担当しているが、初めての経験です」。

　名古屋市では朝からの雨も相まって、別の投票所では駐車場待ちの車で周辺道路が渋滞。建物の外で傘を広げて一時間ほど列に並んだ人もいた。

　愛知県一宮市の期日前投票所となった「尾張一宮駅前ビル」の近くでは、複数の候補者が朝から街頭演説に立った。この投票所では午後六時までに約二千五百人が投票。初めての選挙を迎えた大学一年川村英典さん（１８）は行列に驚きつつ、「待ち時間に誰に投票しようか考えた」と話した。

　ピーク時の昼前に約二百人が並んだ同県江南市役所は、七人分だった投票用紙の記載台を急きょ十一人分に増やして対応。同県豊橋市の投票所にも、入り口に九十人が列をつくった。

　期日前投票は受け付けで当日投票できない理由を伝える必要がある。昨年の公職選挙法改正で「仕事」や「旅行」、「冠婚葬祭」などに「悪天候」が加わり、ある自治体の選管職員によると、来場した有権者のほとんどが悪天候に「○」を付けたという。

　津市も朝から強い雨が降った。期日前投票所になった市役所には一時間待ちの行列ができ、その列からも聞こえる音量で選挙カーの候補者が叫んだ。「最後のお願いに参りました！」

　ただ、投票を断念して帰る人もいた。母親と訪れた徳田達哉さん（３９）は「近くで子どもたちを待たせているので」と列を離れたが、「明日は大雨でも投票所にいきたい」と話した。

　長時間並んで足が痛いと訴える高齢者に、市の職員が「並んでもらうしかない」と答える場面もあった。無職の男性（７０）は「市が『台風だから早めに』と言うから来たのに」と憤る。

　岐阜市の市橋コミュニティセンターでは、午前九時の受け付け開始から三十分で約三百人が来場。職員は記載台を外に出し、待ち時間に書類に記入してもらうなどして対応した。

（衆院選取材班）