• 中日新聞ウェブ
  • 中日新聞プラス

中部

「改憲は不安。だけど…」 中部9県、有権者調査

2017年10月19日 紙面から

写真

 二十二日投開票の衆院選で、自民はじめ改憲に前向きな「改憲勢力」五党が国会発議に必要な三分の二以上の議席を獲得することが有力な情勢だが、有権者の九条改憲に対する関心は必ずしも高まっていない。自民を支持する人でも改憲に不安を持つ人は多く、投票行動とのねじれが生じている。

 「九条改憲イコール戦争というイメージがある」と話すのは名古屋市西区の会社役員田中知美さん(49)。だが、北朝鮮情勢や海外の邦人保護を考えると、「国際情勢が変化し、改憲の時が来たのかという感じもする」と気持ちは複雑だ。

 期日前投票で自民候補に投票した。憲法に対する姿勢を判断基準にしたわけではなく、「政党としての総合力と政策の実現力があるかどうかが基準」と話す。

 憲法よりも教育費や税の使い道などを重視するという滋賀県草津市の大学一年栗栖歩夢さん(19)は「実績のある自民に入れる。他者の批判ばかりする野党は信用できない」と話した。

 長野県松本市の大学一年井上勇矢さん(19)も「長期政権に安定した外交を展開してもらいたい」と自民に期待。ただ「九条が改憲されれば、若者が戦争に行くことにならないか不安」と漏らし、「改憲の国民投票になれば反対を投じる」と断言した。

 「まだ投票先を決めていない」と話すのは、岐阜県山県市の大学三年橋本華澄さん(20)。「九条が変わってしまえば、戦後ずっと平和だった日本に悪影響が出てしまう」と心配するが、衆院選では「改憲より、教育無償化や給付型奨学金の拡充が気になる」と言う。

 一方、三重県伊賀市のパート従業員枡本知里さん(29)は改憲に真っ向から反対。「子どもたちが大きくなった時に戦争できる国になっているのは怖い。今もそこに近づいていると思う。憲法を守る、と言っているところに投じる」と話す。また、「安倍首相には改憲反対の声に耳を傾けてほしいけど、選挙に勝ったら聞いてくれないと思う」と選挙後を心配している。

 投票に憲法を重視していても、正反対の意見を持つのは福井市の会社役員加畑一吉さん(81)。投票先は自民。現在の憲法は自衛隊の位置付けがあいまいなのが問題だと感じており、「日本の軍備は最高級だが、使い方が憲法で決まっていない。九条を変えれば少なくとも非常事態時の対応は明確にできる」と話した。

 (衆院選取材班)

◆生活の課題が優先に

 <井田正道明治大教授(政治学・投票行動論)の話> 有権者にとっては景気や消費税など生活レベルの課題の優先度が高く、憲法が投票する基準になりにくいのは一九九〇年代から続く傾向。九条改憲には反対だが自民に投票するという有権者の行動は典型的だ。憲法は重要な論点だが、メディアや専門家と有権者の意識が乖離(かいり)するのはよくあることだ。

 自衛隊は既に活動が定着している現状があり、憲法に自衛隊明記を訴える自民が勝っても平和主義を定めた憲法の価値が揺らぐと受け止める人は少ないだろう。安倍政権は来年の通常国会以降、改憲のための国民投票に向けた手続きに入るだろう。自民党内や連立を組む公明党との間で温度差があり、すんなり進むかどうかは見通せない。北朝鮮情勢の緊迫化が改憲の議論を後押しする要素になる可能性はある。

主な政党の公約

新聞購読のご案内