• 中日新聞ウェブ
  • 中日新聞プラス

中部

<しごとの現場から>金融緩和 不動産、育つバブルの芽

2017年10月19日 紙面から

写真

 アベノミクスの金融緩和政策で超低金利が続く。利回りの良い運用先として不動産に投資マネーが向かい、業界は活況を呈する一方、物件の売買や賃貸の値動きは過熱気味。一部で「バブル」を懸念する声も聞かれる。

 「2LDK 十五階 家賃二十七万円」。名古屋市の都心で建設が進む四十階建て分譲タワーマンション「グランドメゾン御園座タワー」。十二月の完成を前に、不動産情報サイトをのぞくと早くも数戸が賃貸物件として登録され、借り手の募集が始まっている。数戸の購入者が住まずに賃貸運用し収益を上げようとする動きを意味する。

 「名古屋にはなかった現象」と驚くのは、賃貸仲介などを手掛ける三井不動産リアルティの天野英太郎さん(52)。名古屋の不動産市場を三十年にわたってウオッチしてきた。これまでは郊外から都心に移り住む人などの実需中心だった。そこに初めから賃貸や転売を目的に購入する動きが一定の規模で現れた。

 同じく名古屋都心に七月に完成した二十九階建て「プラウドタワー名古屋栄」でも、この三カ月間で全三百四十七戸のうち約四十戸が賃貸に出されているという。三井不動産リアルティも完成直後に売買仲介し購入時より十数%高い価格で成約する取引を手掛けた。

 天野さんは「名古屋のタワーマンションの分譲価格は東京と比べると割安。手堅く利回りを確保できる運用先として選ばれたのではないか」と分析する。

 投資マネーの流入で、賃貸マンションの建設も活況だ。国土交通省によると、昨年度の住宅着工戸数は九十七万四千戸で、前年度より5・8%増加。特に「貸家」の戸数は八年ぶりの高水準だった。賃貸マンションなどを設計する加藤設計(名古屋市)の売り上げは四年前と比べて倍増。受注件数も一・五倍に伸びた。

 資材価格などの高騰で建設コストが上昇しているにもかかわらず、着工の勢いが止まらない異常事態だ。加藤昌之社長(63)は金融緩和の恩恵を感じつつ、先行きに不安を抱く。「バブルの芽ではないのか。地価や建設コストを抑えるような政策を打ち出しソフトランディングさせないと危うい」

 分譲マンションの賃貸物件は、住宅着工戸数統計の貸家には入っていない。名古屋商科大の大槻奈那教授(金融システム)は「現状では実際に居住する需要が伴わないまま、値上がりを期待してマンションへの投資が続いている。そろそろ打ち止めにしないと、いったん物件価格が下がり始めたら、下落に歯止めが効かなくなる」と警鐘を鳴らす。

 (河原広明、曽布川剛)

主な政党の公約

新聞購読のご案内