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<しごとの現場から>首相の「生産性革命」 コスト削減「もう限界」

2017年10月17日 朝刊

中小の金型メーカーの従業員が年季の入った工作機械で黙々と鉄を削る=愛知県内で

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 日本のモノづくりを支えてきた中小の自動車部品メーカーに、先行きへの不安感が広がっている。自動車の国内販売は右肩下がりで、電動化に伴う部品点数の削減も予想される。安倍政権は経済対策の柱に「生産性革命」を掲げるが、厳しいコスト削減の要求に応え続けてきた下請け企業からは「もう、限界」との声も漏れる。

 愛知県内で自動車部品の金型を生産する中小企業の工場。油と金属の臭いが充満する中、男性従業員が年季の入った工作機械を操作し、鉄の塊を削っていた。

 「これ以上、生産性を上げろと言われても無理だ」。この会社の社長は、安倍晋三首相が衆院解散を表明した九月二十五日、記者会見での首相発言に違和感を持った。

 「生産性革命をわが国がリードすることが成長戦略の最大の柱だ」。安倍首相はアベノミクスの効果を強調しながら、国民に向かって「企業の設備や人材への投資を力強く促す」と力を込めた。

 大企業ではロボットなど最新設備の導入が進むが、投資する体力がない中小・零細企業は多い。さらに、社長の頭を悩ませているのが、人手不足による人件費の高騰だ。熟練の職人をつなぎ留め、新規の従業員を確保するため、毎年一万円前後の賃上げをしてきた。「機械を増やせばオペレーターが必要になる」。補助金を配れば単純に設備投資が増えるという発想に、社長は疑問を感じている。

 大企業と中小企業の生産性の格差は、従業員が生み出す付加価値の統計に表れている。販売額から原材料費などを差し引いた付加価値額は、製造業の資本金十億円以上の大企業では二〇一六年度に一人当たり千三百二十万円に上ったが、一億円未満の企業は四割の五百四十九万円にとどまった。

 中小企業の生産性が伸び悩む中、大手自動車メーカーは電動化や自動運転への対応という難題に直面している。研究開発費をひねり出すため、既存のガソリン車などの原価低減が不可欠で、下請け企業へのコスト削減要請が強まっている。

 トヨタ自動車に部品を納める愛知県内の部品メーカーの六十代の社長は「赤字で仕事を受けるわけにはいかないので、効率化はずっと続けてきた。でも、これ以上は難しい」と訴える。

 この会社では、将来の部品の受注減に備え、航空産業など異業種での製品開発に乗りだしている。ただ、これまでの部品値下げや人件費の負担増で十分な利益を確保できず、新分野の開拓は容易ではない。

 大企業が潤えば、中小企業や個人にも恩恵が回るというアベノミクスのシナリオ。社長は「良くなるのは大企業の収益と株価ばかり。われわれにその実感はない」と語気を強めた。

 (鈴木龍司)

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