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<しごとの現場から>地場産業 いざなぎ超え「別世界」

2017年10月14日 紙面から

焼成された瓦を1枚ずつ検査する三州野安の社員。次々と流れてくるが、生産枚数は減少している=愛知県高浜市で

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 安倍政権は経済政策アベノミクスの成果として、好景気の期間が戦後二番目に長い「いざなぎ景気」を超えた可能性が高いと強調する。ただ、全国津々浦々まで効果が波及したとは言い難く、中部地方でも地場産業の現状は厳しさを増している。

 三州瓦の産地、愛知県高浜市で百年以上続く瓦メーカー「三州野安(のやす)」。主力の碧海(あおみ)工場では十二日、焼成された粘土瓦がベルトコンベヤーで次々と運ばれていた。一日で平均的な住宅四十軒分の約五万六千枚を生産するが、二十年前に比べると半減している。

 三州瓦の業界全体でも近年は出荷量が減少傾向で、二〇一四年はピークだった一九九七年の半分以下となる約二億九千万枚。愛知県陶器瓦工業組合の担当者は「リーマン・ショックで激減した住宅着工件数は戻りつつあるが、屋根材にスレートなどを使う格安住宅の台頭で瓦の需要は戻っていない」と分析する。

 三州野安顧問で組合理事長を務める野口安広さん(67)は「悲観したり泣き言を言ったりしても仕方ない。踏ん張るしかない」と、自分に言い聞かせるように語った。

 一四年十二月の衆院選で、安倍晋三首相は「地方経済へと景気回復の暖かい風を送り届けてこそ、アベノミクスは完成する」と宣言した。それから約三年。政府は通称「ものづくり補助金」を通じた地場産業を含む中小、零細企業の設備投資支援などを講じてきたが、地方経済の活性化はまだまだの状態だ。

 海外の低価格衣料品に押され、苦戦が続く愛知県一宮市とその周辺の繊維業界。染色メーカーの五十代の男性社長は「アベノミクスでバブル景気を超えたとか、大企業を中心に過去最高益だとか…。どこか別世界の話」とつぶやく。業績の下降は続き、ここ十年で売上高は二割減った。

 厳しい業界との認識が定着し、従業員の確保でも苦戦することが多いという。昨年は何とか新人六人を採用できたが、うち二人はすぐに辞めた。「事業継続にはどうしても人手がいる。今年も四人に内定を出したが、ちゃんと来てくれるかどうか…」。社長は消え入りそうな声で不安を口にした。

 (酒井博章)

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