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中部

<しごとの現場から>建設バブル 技能者不足、業界揺らぐ

2017年10月11日 紙面から

ベテラン作業員(写真奥)が見守る中、溶接作業に取り組む若手=愛知県弥富市で

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 橋やビルの溶接を手掛ける十一屋工業(名古屋市)が愛知県弥富市に設けた、橋の落下などを防ぐ耐震補強部材の工場。今月上旬、六十代のベテラン作業員が見守る中、二十代の若者が慎重な手つきで溶接に当たっていた。近くで来日四年目のベトナム人男性も競うように火花を散らせる。

 「若手を大事に育てつつ外国人労働者の力を借りなければ、仕事を乗り切れない」。佐々木一道(かずみち)社長(58)がつぶやいた。

 建設業界の人手不足が深刻だ。総務省の調査では、昨年の就業者数はピークだった一九九七年の六百八十五万人から四百九十二万人に約三割も減少した。

 十一屋工業で働く約九十人のうち、三分の一は技能実習生などのベトナム人。三分の一が三十代前半までの若手で、六十歳前後もいる一方、三十代半ば〜四十代半ばは五人ほど。施工管理などを除き、建設作業に従事する「技能労働者」の中堅が足りない。

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 溶接技能者は鉄骨を組む作業に欠かせないが、現場で必要な作業を判断できるには十年かかる。型枠大工も一人前になるのに七年を要する。しかし、近年はすぐに辞める若者も多く、離職防止の研修会を開いている愛知県建設業協会の担当者は「入社一年目が一つのヤマ場」と話すほどだ。

 建設業界は経済政策の影響を正面から受けてきた。戦後は公共事業と二人三脚で発展したが、構造改革を唱えた小泉政権と「コンクリートから人へ」を掲げた民主党政権によって公共事業は縮小。労働者は業界から離れていった。

 現在、安倍政権は国土強靱(きょうじん)化をうたい、防災対策など公共事業が再び脚光を浴びる。東京五輪の建設ラッシュが始まり、老朽インフラの維持管理も増える見通し。人口減少時代に訪れた「建設バブル」の状況で担い手不足は加速し、それに伴い人件費の高騰も続く。

 帝国データバンク(東京)によると、六月までの四年半で、従業員を確保できず事業が立ちゆかなくなる人手不足倒産は、建設業で百五件と全産業の三割以上だ。愛知県では全産業十六件の半数以上にあたる九件を建設業が占めた。名古屋市内の建設業者は「知り合いで廃業予定の会社がいくつもある」と明かした。

 建設業界に進む若者らを増やそうと、安倍政権は労働環境の改善を指導。社会保険未加入の作業員を現場で働かせないようルールを徹底した。しかし、昨年十月時点で雇用保険、健康保険、厚生年金のいずれにも加入していない建設労働者は全体の13%に上った。

 十一屋工業の佐々木社長は「人手不足の現状は深刻だ。仕事があっても先が見通せない」と天を仰ぐ。

 (相馬敬)

     ◇

 衆院選が十日公示され、四年十カ月の安倍政治を問う選挙戦が始まった。主要政策アベノミクスは中部地方の経済にどんな影響を与えたのか。各業界の現場で現状と課題を探った。

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