• 中日新聞ウェブ
  • 中日新聞プラス

中部

一票、厳しい目線で 有権者、それぞれの視点

2017年10月10日 紙面から

 安倍首相周辺の「森友・加計(かけ)問題」の解明に始まり、強行採決された安全保障関連法制や「共謀罪」の是非、東日本大震災の被災地復興、広がる格差−。十日公示の衆院選で、有権者はそれぞれの視点で安倍政治の四年十カ月を見つめる。

◆子育て支援 待機児童いつまで

 「待機児童は都会の問題と思っていた」。四人の子を育てながら、産後の母親から相談を受ける岐阜県瑞穂市の助産師武藤しのぶさん(39)は最近、頻繁にこんな言葉を聞く。

 名古屋市のベッドタウンの瑞穂市は県内で唯一、待機児童を抱える。七月一日現在で十二人。保育園に空きはなく仕事に復帰できないママもいる。通園で往復四十分かかるなど希望しない園にやむを得ず通う家庭は「かなり多い」。

 武藤さんも次男(4つ)の入園で一カ月半、待たされた。しかも、次女(6つ)の保育園とは別で毎日、二カ所に送り迎えすることに。参観日が違う日にあるなど不便を強いられた。

 安倍首相は、本年度末までを目標としていた「待機児童ゼロ」を三年先送りとした。武藤さんは「ゼロなんてのは厳しいのでは」と疑いの目を向ける。衆院選は、いつも通り家族全員で投票に行く。「子どもの将来のため、口先でなく、有言実行してくれる人を見極めなきゃ」

◆奨学金返済ずしり 若者の貧困

 「子どもや若者の貧困対策はこれから」。愛知県春日井市の会社員佐藤寛太さん(25)は、政党や候補者の格差解消に向けた訴えに注目する。

 母子家庭で育った。今春、九百万円近い奨学金の返還を背負い、名古屋市内の大学を卒業。半年がたった今月から返し始める。平均すると月四万円弱で約二十年かかる計算だ。

 就職したIT関連企業の手取りは月十七万円余り。「返還分を引いて、どう生活を切り詰めていくか。同じように返還を抱える友人としょっちゅう相談している」。少しでも貯金して、やがては結婚もしたい。

 安倍政権は返還不要の給付型奨学金を創設し、本年度から大学などへの進学者約二千八百人を対象に先行実施した。佐藤さんは「政治もこの問題に取り組み始めた」と評価するが、返還中の若者には支援が不十分だと感じる。

 政治が若者や子育て世代の背中を押せば、格差拡大や人口減少に歯止めがかかると期待する。「そのためにも、投票には必ず行きたい」

◆自宅再建、まだ遠く 被災地の復興

 東日本大震災から六年半が過ぎた被災地。津波で中心部が壊滅した岩手県陸前高田市の無職佐々木栄さん(87)は、「てんでんこなんだな。選挙も」と皮肉った。

 「津波が来たら家族にさえ構わず、てんでばらばらに逃げろ」との古くからの教訓。だが、佐々木さんの目には、当選のために離合集散を繰り返し、われ先にと新党に駆け込む政治家たちの姿こそ「てんでんこ」に映る。「保身だけ。安倍首相の解散の判断だって意味が分からない」。公示の朝、冷ややかな思いで朝刊を広げた。

 自宅を流されてから今年九月まで、大半を市内の仮設住宅で過ごした。ようやく先日、妻(84)とともに公営住宅に移ることができたが、念願の自宅再建は早くても来年半ばの見込みだ。佐々木さんは「山を切り崩して安全な土地を造成する事業が遅れている。待つうちに消費税が上がって、支払う費用が高くなるんじゃないか」と表情を曇らせる。

 先月まで暮らした仮設団地は、百五十戸のうち三十戸が残っている。自宅再建を待ちわびながら、亡くなった人は十人以上。「誰が、どの党がこの先も被災地のことを真剣に考えてくれているのか。見極めるしかない」

◆追及逃れ許さない 森友・加計問題

 「忖度(そんたく)」。愛知県春日井市の社会保険労務士大脇一男さん(84)は最近、この二文字をよく目にする。

 趣味で川柳を始めて四十年余り。地元の教室で教えていると、「忖度」を使った作品が多く詠まれる。「人の心を推し量る」という、この言葉は「森友・加計学園」問題と安倍晋三首相の関連をめぐって頻繁に登場した。

 安倍首相は「丁寧に説明する」と言っているが、日ごろから国会論戦をニュースなどでつぶさに見てきた大脇さんには、首相が森友・加計問題の説明を尽くしたとは思えない。「追及から逃れたくて解散に踏み切ったように見える」。とはいえ、追及する野党も頼りないと感じる。

 十日は自宅でテレビのニュースを見て、慌ただしく始まった衆院選について考えた。「各党が掲げる公約は、一見どれも魅力的」。皮肉を交えて、選挙戦のスタートをこう詠んだ。

 公示日の メニュー上辺(うわべ)は みなきれい

◆平和な日本続けて 安保法制・共謀罪

 津市の元三重県職員、珍道世直(ちんどうときなお)さん(78)は9日夕、津駅前で戦争体験や憲法9条の意味を行き交う人にマイクで語り掛けた。「平和な日本であり続けてほしい。まだ引き返せる」

 太平洋戦争末期の1945年7月、市内は米軍の空襲で火の海に。家族は無事だったが、街はがれきの山と化し、川に無数の遺体が浮かんだ。戦争の恐ろしさ、むごたらしさが記憶に深く刻み込まれた。

 安保法制や「共謀罪」法の強行採決をテレビで見た。「国民の声を無視した行為。このままでは戦争できる国になってしまう」

 集団的自衛権行使を容認した閣議決定と安全保障関連法は違憲だとして、1人で国に無効を求める訴訟を起こした。だが、6月に最高裁で棄却された。

 公示日の10日、各政党や候補の重点政策をこれまでの新聞やテレビであらためて見比べた。「大義なき選挙。だまっているわけにはいかない」。夕方には駅前で再びマイクを握る。

主な政党の公約

新聞購読のご案内