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「政見放送の字幕、地方選にも」 手話分からぬ聴覚障害者

2019年1月31日

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 二月三日投開票の愛知県知事選で、候補者の政見放送に字幕が付かないため、手話が分からない聴覚障害者らが困っている。昨年六月の公選法改正で、今夏の参院選では字幕を付けられるようになったが、知事選は議論にもならず、取り残されたまま。耳が不自由な人からは「身近な地方の選挙こそ字幕が必要」と声が上がる。

 「分かったのは候補者の名前と『よろしくお願いします』のあいさつくらい。正直、伝わるものは何もなかった」。二十五日、自宅で政見放送を見た同県小牧市の主婦古木茂代さん(69)はテレビの前でため息をついた。

 小学生の時に流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の後遺症で難聴になり、成人後に聞こえなくなった。話すことはでき、日常会話は口の動きを読みとるか筆談が主で、手話はあいさつ程度しか習得していない。政見放送には手話通訳が付くが、行政用語を交えた政策は難しく、読み取ることはできないという。

 政見放送は、知事選と衆参両院の国政選挙の候補者が公費で利用でき、公選法で制限時間や収録方法が細かく規定されている。知事選の場合、時間は五分三十秒で、定められた放送局のスタジオで収録する。内容の加工、編集は一切禁じられ、字幕も付けられない。

 以前は国政選挙も同様だったが、障害者団体などが長年改善を求めてきた結果、公選法が改正され、一九九六年の衆院選から字幕付きが可能に。放送局での収録以外に、政党が擁立した小選挙区の候補者に限って自前で制作したビデオを持ち込み、手話通訳や字幕を付けられることになった。参院選も今夏から、選挙区候補は同様に持ち込み方式を選べる。

 総務省などによると、知事選では収録先の地方放送局で技術的に字幕を付けられない場合があり、今のところ改正に向けた動きはない。持ち込み方式にしないのは、国政と違い、政党などの背景を持たない無所属候補も多いため「ビデオ制作のノウハウがなく、内容の平等性などが担保できない恐れがある」と説明する。

 古木さんは新聞二紙を購読し、今回立候補している新人の榑松(くれまつ)佐一さん(62)と現職の大村秀章さん(58)の主張を読み比べ、投票先を吟味する。政見放送は制限時間があるからこそ、候補者が何を重視しているか明確になると考えている。「たとえ字幕でも候補者の『肉声』に触れてみたい。そういう有権者もいることを、ぜひ候補自身から伝えてほしい」と願う。

 (安藤孝憲)

 

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