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新時代、継続か刷新か 知事選告示

2019年1月18日

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 十七日告示された愛知県知事選は、新人の榑松(くれまつ)佐一さん(62)と現職の大村秀章さん(58)が対決する構図となった。初日の演説で榑松さんは、大村さんが進める「大型事業」「経済対策」「教育・福祉」を取り上げて現県政を批判。迎え撃つ大村さんは二期八年の幅広い実績を強調し、引き続き県政のかじ取り役を担う意気込みを語った。

 十七日朝、名古屋・栄で第一声を上げた榑松さんは「大規模事業は完全に時代遅れ。暮らしの土台を支える県政に変える必要がある」と繰り返し訴えた。

 念頭にあるのは、二〇二七年のリニア中央新幹線開業を見据えた社会基盤整備や、中部国際空港に二本目滑走路を整備する構想。いずれも大村さんが推進する事業で、榑松さんは反対姿勢を鮮明にしている。

 一方の大村さん。名古屋駅前での演説で「リニア開業を見据え、名古屋駅のスーパーターミナル化を進める」と決意表明し、二本目滑走路についても推進を明言した。

 経済対策では、大村さんが実績を示しながら「企業の設備投資支援などにより、県内の経済、雇用状況は八年で大きく伸びた。この良い流れを継続していかなければならない」と強調。自動車や航空宇宙などの先端産業支援にさらに力を入れると主張した。

 対する榑松さんの経済対策の柱は、非正規労働者の雇用改善や中小企業振興。「電気自動車(EV)時代が来れば、部品は現在の三分の一で済むと言われ、仕事をなくす人が出る。今のうちに優れた中小企業を横につなぎ、新しい産業を興していく」と訴えた。

 榑松さんは演説で、教育・福祉施策の充実にも多くの時間を割いた。国民健康保険料の引き下げや高校卒業までの医療費無料化を掲げ「財政力が全国二位の愛知なら必ず実現できる。できないのは、予算の使い方が間違っているからだ」と大村県政を批判した。

 大村さんも、特別支援学校や福祉施設を八年間で県内各地に整備してきた実績を説明し「産業力を支える人づくりこそ最も大切な政策。すべての人が輝ける愛知にしていく」と力を込めた。

 (中尾吟、安藤孝憲)

◆「何もにゃあです」 河村市長、沈黙保つ

 大村秀章さんの初当選を支え、二〇一五年の前回選でも支援した河村たかし名古屋市長はこの日、普段通りに市役所で業務をこなした。最近はかつての盟友関係にも陰りが見え、報道陣の問い掛けに「わしから言うことは何もにゃあです」と沈黙を保った。

 知事選、名古屋市長選、市議会解散の是非を問う住民投票が同日に行われた二〇一一年の「トリプル投票」で、二人は「減税旋風」を巻き起こし、そろって既成政党の対立候補を破った。ところが当選後、県と市の合体を目指した共同公約「中京都構想」を巡る考えの相違などですきま風が吹き始め、前回の知事選後には県と市がそれぞれ大規模国際展示場の新設を目指すなど溝が深まった。

 一七年四月の名古屋市長選では大村さんが「河村さんは応援できない」と明言。今回の知事選では、河村市長率いる地域政党・減税日本が一時、対立候補の擁立を模索するまでに関係はこじれた。昨年も名古屋城のエレベーター問題やカジノを含む統合型リゾート(IR)施設の誘致を巡り、意見の対立が続いた。

 十七日午前にあった大村さんの出発式。次々とマイクを握ったのは、かつて戦った与野党の国会議員ら。「村・村コンビ」の姿はなかった。

◆現職の業績どう評価 愛知学院大教授(政治学)森正さん

 <愛知学院大教授(政治学)森正さんの話> 主要政党が現職を支援し、国政上の対立構図が持ち込まれた選挙ではないため、注目はされにくいかもしれない。だからこそ、今後の県政のビジョンについてしっかりと考えることができる選挙とも言える。

 両候補がメインに掲げる産業の発展、教育・福祉といったテーマは明確な対立軸が見えにくく、実質的には現職の業績を評価する選挙になる。

 郵政選挙と言われた二〇〇五年の衆院選や、大阪都構想の是非が争点となった一五年の住民投票とは違い、何か一つのテーマで争う選挙ではないため、有権者それぞれが関心のあるテーマでより細かく政策を見比べることができる。両候補の政策をそれぞれ評価して投票してほしい。

◆身近な課題多いはず 全国市民オンブズマン連絡会議事務局長・新海聡さん

 <全国市民オンブズマン連絡会議事務局長・新海聡さんの話> 「日本一元気な愛知」など前回と同じ抽象的フレーズを連呼する大村さん、政権批判と大差なく、主張に既視感を覚える榑松さん共に新鮮味に欠け、熱のない開幕と言わざるを得ない。

 知事選は次の四年の課題を見つめ、県の将来像を議論する機会だ。現職は今の県に何が足りていないかを伝え、問題提起する義務があるが、大村さんの主張からは「現状維持」の印象しか読み取れない。対する榑松さんも、明確な対抗軸を打ち出せていない。

 選挙戦を冷めた目で見つめる有権者の姿が思い浮かぶ。だが医師不足や教育負担の公私格差の問題など、身近で具体的な課題は多いはずだ。諦めずに声を上げ、争点に押し上げていく姿勢も有権者に求められる。

 

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