中日新聞

中日新聞社のこれから

取締役・経営企画担当

久野 哲弘Tetsuhiro Kuno

ご自身の経歴と、その中で特に印象に残ったエピソードを教えてください

1987年に編集職で入社し、地方支局と名古屋本社社会部で計11年ほど警察や行政、教育取材などを担当しました。

胸を張るスクープはありませんが、名古屋市が環境保護の世論に押されて藤前干潟へのごみ処分場建設を断念するまでを取材したこと、白血病を患った愛知県の女子高校生が国内で初めて海外から空輸された骨髄液の移植を受けた出来事を連載し、後に書籍になったこと、名古屋の男子高校生が留学先の米国で銃撃され亡くなった事件で、ご両親を追って夜勤明けのまま渡米したこと、など忘れることのない経験はたくさんあります。

都市のごみ分別回収は定着し、東海地方で生まれた骨髄バンクは全国規模となり、米国社会では今も銃によって多くの人の命が奪われている。私が取材に携わったのは20年以上も前ですが、今もニュースは動いていて、決して過去のものではありません。連綿と続く社会、歴史、文化の流れにあって市井の人々の営みを記録する、そこに新聞記者の変わらぬ役割があると今も信じています。

中日の強みは何だと思いますか

明治の創刊以来、140年近い歴史を重ねる中で諸先輩が培ってきた「地域に寄り添う姿勢」により、多くの皆様からいただいている「信頼」だと思います。

中日新聞社ではさまざまな部門で社員が働いていますが、読者の皆さんやお客様から日々こんな言葉をいただいています。「中日さんだけがいつも取材してくれる。ありがとう」「けさの中日新聞に書かれていたから、きっと本当のことだよね」「さすが中日しか実現できないイベントだね」。

皆様から寄せられる有形無形の信頼を決して裏切ることなく、正確な報道と有益な情報の発信、地域への貢献につながる良質なコンテンツの提供を続けていく。それが、わが社の強みであり、ミッションでもあると思います。

逆に中日が抱えている課題は何だと思いますか

中日新聞社グループには、取材・紙面制作・印刷や折込広告、広告代理店といった新聞発行に関連する会社に加え、プロ野球球団やドーム球場、チケットサービスなどさまざまな関連会社があります。

かつては紙の新聞発行が占める割合が圧倒的だったため、新聞読者以外のお客様にも新しい商品やサービスを作り出したり、アピールしたりすることが、やや苦手でした。

残念ながら紙の新聞の発行部数は少しずつ減っていますが、決して正確な情報発信や多様なコンテンツへのニーズが低下しているわけではないと思っています。

報道や地域情報の発信、スポーツやエンタメなど中日グループでなければ生み出せないコンテンツやサービスを、適時・適切に世に送り出していく、そこにグループの総力を注ぐべきと考えています。

中日新聞社あるいは中日グループとして新しく取り組んでいることを教えてください

新聞読者の皆様や中日グループのお客様のことをもっと良く理解して、より良い商品やサービスの開発につなげることが必要だと考えています。

こうした取り組みのベースとして、お客様の年齢や居住地、興味・関心をお持ちの分野などの情報と、チケット購入やサイトの閲覧情報などを有機的に連携する顧客データ統合基盤を作りました。

個人情報の取り扱いには十分に配慮した上で、的確なデータ分析を通じて効果的なマーケティング施策の研究を進めています。さらに今後は、こうしたデータ基盤を地方自治体の情報発信など地域の課題解決にも役立てることができるのではないかと考えていて、社内のチームで検討しています。

今後のビジョンや中日が果たしていくべき役割について教えてください

新聞の発行エリアを中心に培われてきた皆様からの厚い信頼を、さらに積み重ねていく地道な努力こそ必要だと思います。小石を一つずつ積む時のように、信頼を築き上げるには長い歳月を要しますが、失う時はわずか一瞬です。それは日々の報道現場でも営業活動でも変わりません。

繰り返しになりますが、正しい取材と報道、人生と生活に潤いをもたらす情報発信やイベントの企画、これらすべてを「コンテンツ」と表現するなら、私たちは地域社会とそこで生活していらっしゃる皆様と真摯に向き合い、充実したコンテンツを積極的にお届けしに行く。このことを、これからも果たすべき役割と信じています。

学生へのメッセージ

新聞を「斜陽のメディア」と呼ぶ人がいます。しかしSNSやインターネット空間で真偽不明の情報や誹謗中傷が飛び交う今、コストをかけて正しい情報を取材して整理し、分かりやすく伝える報道の役割はむしろ増しています。

新聞は「セレンディピティのメディア」とも言われます。一覧性の特性により、思いがけずページの片隅で有益な情報に出会うという意味ですが、これは紙の新聞にだけ当てはまるわけではありません。

私たちのコンテンツは文字と写真で構成する平面上の記事だけでなく、動画や音声もあります。地元でしか流通しないローカル情報も、世界的規模の美術展やスポーツイベントもあります。

重層的なコンテンツを適時・適切な媒体で皆様にお届けする、そんな中日新聞社の仲間として次代を切り拓いてくれる人材を待ち望んでいます。