紙面から(パラリンピック)

瀬立選手「雪辱、東京で」 カヌー8位

カヌー女子スプリント・カヤックシングル200メートル決勝で8位に終わった瀬立モニカ選手=リオデジャネイロで(共同)

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 世界の壁は厚かった。カヌースプリント(運動機能障害KL1)で瀬立(せりゅう)モニカ選手(18)=東京都江東区、筑波大=は決勝に進んだが最下位(八位)。初のパラリンピックはほろ苦く、二〇二〇年に地元で開かれる東京大会でのメダル獲得を悔し涙に誓った。

 「追う立場。上位の選手をびっくりさせてやろう」。リオ大会は、自宅近くに競技会場が設けられる四年後の東京大会に向けた経験の場と位置づけていた。

 この日まで、運を味方にしてきた。リオ出場を懸けた世界最終予選で、上位選手が失格して転がり込んだ切符。リオではランキング上位のロシア選手がドーピング違反問題で出場していない上、ウクライナ選手が肩の故障で欠場するなど、上位選手が不在となって進んだ決勝。だが、強気な思いとは裏腹に、七位から5秒以上離され、上位勢との実力差を思い知らされた。

 瀬立選手は三年前、カヌーで国体を目指していた高校一年生の時、体育の授業中の事故で下肢の筋肉に力の伝わらない「体幹機能障害」となり、車いす生活に。一年後、パラカヌーへ転向した。

 カヌー経験者とはいえ、健常者の時との違いに戸惑った。健常者は艇内の板を蹴りながらパドルを回すほど下半身を使うが、瀬立選手はそれができない。それどころか、座った姿勢を維持するのも難しい。けがをする前から指導してきた西明美コーチも「障害のある体でどうすれば速くなるのか、彼女にしか分からない」と手探り状態だった。

 江東区の旧中川で練習を始めたころは慎重にパドルをこいでバランスを取るのが精いっぱい。あれから二年。上体の筋力を鍛え、肩回りは今年春からの半年だけでも四センチ太くなり、今は水面を切り裂くようなパドルさばきができる。

 東京・下町の小さな川から始まった挑戦。地元の支援も厚く「支えられて生きているのがよく分かり、一番うれしい」とこれまでの月日を振り返る。スタンドで見守った母キヌ子さんは「順位は八位だけど、三年前のけがを考えれば、別の意味の金メダルをあげたい」と娘をたたえた。

 「今回の雪辱を果たすために、四年間練習に励む」と瀬立選手。東京への戦いはすでに始まった。

 (荘加卓嗣)

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