紙面から(パラリンピック)

王者の自負、最後まで 国枝選手、3連覇ならず

車いすテニス男子シングルス準々決勝で敗退した国枝慎吾選手=13日、リオデジャネイロで(田中久雄撮影)

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 車いすテニスの男子シングルスで三連覇を目指していた国枝慎吾選手(32)=ユニクロ=が、十三日の男子シングルス準々決勝で敗れた。競技の枠を超えた障害者スポーツのシンボル的存在で、パラリンピックの盛り上げ役という自負を胸に臨んだ大会。「僕自身のプレーができなかった」。世界大会で優勝を重ねた王者の目に悔し涙が浮かんだ。

 いろんな思いが交錯し、積み重なった。センターコートでの第一試合。ジェラール選手(ベルギー)は序盤から左右に揺さぶり、強烈なショットを打ち込んできた。

 国枝選手は動きが重く、ラケットの振りや車いすを操るチェアワークに、いつもの切れが見られない。「今日のパフォーマンスでは勝機はなかった」。試合後、国枝選手はうなだれた。

 九歳の時、脊髄の腫瘍で下半身が不自由になり、母親の勧めで小学六年からラケットを握った。十七歳から丸山弘道コーチの指導を受けるとめきめきと実力をつけ、全米、全仏などの大会で優勝を重ねた。

 世界ランク一位に君臨し、北京、ロンドンの両大会を連覇した王者を昨年、右ひじの痛みが襲った。今年四月に手術を受け、ランクは七位まで落ち、不安を抱える中での出場だった。

 それでも「俺は最強だ」と自らを鼓舞して「リオ大会で金メダルを取る」と宣言。出場と金メダルにこだわったのは、二〇二〇年に東京大会を控え、障害者スポーツへの注目度が高まっているからだ。

 日本を代表する障害者アスリート。パラリンピックの認知度を高めてきた自負がある。東京大会への思い入れは強い。「もし二〇年が東京じゃなかったら、リオは出場を見送ったかもしれない」

 そんな国枝選手が最後まで車いすを回し、あきらめずにボールを追う姿に、スタンドの観衆は大きな拍手を送った。「負けはしたけど、一人でも多くの人が自分のプレーを見てくれたならうれしい」。国枝選手がそう話した時、目に涙が光った。

 (北島忠輔)

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