紙面から(パラリンピック)

広瀬誠、思い切り勝負 柔道、攻めて銀

男子60キロ級で銀メダルとなり、決勝で対戦したウズベキスタン選手(左)をたたえる広瀬誠=共同

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 「今までのパラリンピックで一番強い自分だった」。柔道男子60キロ級で銀メダルに輝いた広瀬誠(39)は今大会の自分をこう評した。

 3人の娘が観客席から送った声援が聞こえたこと、2012年ロンドン大会後にブラジリアン柔術の多彩な攻め方を取り入れたことを理由に挙げた。

 ただ、ロンドンに続いて2度目の応援に駆けつけた高校の同級生で、同じ柔道部員だった会社員磯谷和也さん(39)はもう一つ理由があると感じた。「最後のパラリンピックと思って臨んだからかな。開き直っているように見えた」

 2回戦では攻め込まれて終盤まで劣勢だったが、冷静さを失わずに相手の隙を狙い、払い巻き込みを決めて逆転勝ち。準決勝では危なげなく関節技で、再び一本勝ちした。「決勝は負けこそしたが、思い切った動きをしていた。得意技だけではなくあまり見せない小内刈りまで狙っていた」

 高校時代は柔道部の同級生の中で一番小柄だったが、体の大きい先輩にもひるまず技を仕掛けていた。顧問が教える基本をしっかり身につけながら、難しい技にも挑戦した。「2年生になって目が悪くなってからもその姿勢は変わらなかった。彼はセンスではなくて、努力でここまで成長した」

 予定通り最後のパラリンピックにするかはまだ分からない。だから、もっと強い広瀬を20年の東京大会で見られる可能性も、ゼロではない。

 (伊藤隆平)

◆「先生やったね」 地元も祝福

銀メダルを祝福する紙が張られた名古屋盲学校の玄関=名古屋市千種区で

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 広瀬誠のメダル獲得に地元の名古屋でも喜びの声が上がった。広瀬が勤務する愛知県立名古屋盲学校(名古屋市千種区)では、生徒が使う玄関に、メダル獲得を祝福する紙が張られた。朝登校した生徒たちが「先生がんばったね」と喜び合い、出勤した職員も興奮した様子だったという。

 犬飼保夫教頭は「広瀬先生は生徒思いで、いつも丁寧に指導している。普段の真面目でこつこつ仕事をする性格が、2度目の銀メダルにつながったのだろう」と笑顔を見せた。学校で7月下旬に開かれた激励会のあいさつで「娘に金メダルを見せたい」と話していたといい、犬飼教頭は「金メダルは取れなかったが、ご家族もうれしいでしょう」と話した。

 広瀬が12年前のパラリンピック・アテネ大会直前から通っている千種区の道場内にも、祝福の紙が張られた。道場の監督を務める田代文吾さん(49)は「今までで一番充実した戦いぶりだった。集大成を見せられたのではないか」と準優勝をたたえた。最近は周りのメンバーを指導するようにもなったといい、「気負いなく楽しむように柔道をやっていた。それが寝技も立ち技にも磨きがかかった理由かもしれない」と振り返った。

 (福本英司)

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