紙面から

吉田選手、主将の重責全う 献身、金より強く輝く

 三日前のゆがんだ顔を想像できないほど、すっきりした表情だった。二十一日(日本時間二十二日)の閉会式に、日本選手団主将として出席したレスリング女子53キロ級の吉田沙保里選手(33)。五輪四連覇を逃した無念をのぞかせず、にぎやかなパレードの一員となった。

 「三十年間やってきたレスリングを全て出し切れた。銀メダルに終わったが、多くの方に応援していただきうれしかった。後輩たちが金メダルを取ってくれたことが何よりうれしかった」

 至学館大で十五年あまり指導してきた栄和人チームリーダー(56)には複雑な思いが残る。「沙保里に、ものすごく手間をかけさせてしまった」。集大成と定めた舞台を控えた教え子は、いつものようにチームの雰囲気づくりに尽くしていた。

 練習でハッパを掛けるのはもちろん、細かいところでは無料通信アプリLINE(ライン)を駆使して選手、コーチの食事時間を合わせられるようにした。「伊調(馨選手)にも僕にも気を使い、この五輪を乗り越えようとしてくれた」

 初出場の後輩三人は金を取った。48キロ級の登坂(とうさか)絵莉選手(東新住建)は、世界選手権三連覇から五輪に臨む緊張を「王者らしく過ごせばいい」と解きほぐしてもらった。63キロ級の川井梨紗子選手、69キロ級の土性(どしょう)沙羅選手(ともに至学館大)も「沙保里さんがいるから心強い」と繰り返した。

 日本選手団の主将を、重圧などを考えて消極的な選手が多い中で引き受けた。ロンドン五輪で旗手を務めて調整に苦しみ、主将はメダルを取れないというジンクスがあっても。だから栄チームリーダーは言い切った。「主将の役割を含めたら『金』以上じゃないか」

 日本が史上最多のメダルを獲得したリオの祭典は、吉田選手にとって「負ける悔しさも経験できた貴重な五輪」になった。他の選手の悔しさを全て引き受けたような泣き顔は、これだけの気持ちで闘わなければ強くあり続けられないというメッセージ。受け取った選手が東京五輪で活躍することになれば、銀メダルの輝きはさらに増す。

 (鈴木智行)

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