紙面から

<担当記者座談会>

 南米大陸初の五輪が、17日間の熱戦を繰り広げて閉幕した。今大会の日本選手団は、過去最多のメダル41個を獲得。4年後の東京五輪に向けて、大事な通過点をこれ以上ない成績で締めくくった。選手たちに密着した7人の記者が、目の当たりにした歓喜の瞬間を振り返った。

◆3大会ぶりに金メダル2桁

 <中野祐紀> メダルラッシュに沸いたリオ五輪。金メダルも3大会ぶりに2桁だったが、体操の内村航平(コナミスポーツ)は唯一、複数の金メダルを獲得した。

 <鈴木智行> 内村のすごさを改めて感じた。個人総合決勝では最終種目の鉄棒でほぼ完璧な演技。リードしていたライバルのベルニャエフ(ウクライナ)は場内を歩いたり、椅子に座ったりと落ち着かず、結局演技は失敗。ただ、内村も来年以降はうかうかしてはいられない。

 <森合正範> 内村が安定した力を見せた半面、レスリングの絶対女王、吉田沙保里が4連覇を逃した。

 <鈴木> 衝撃的だった。取材エリアに集まった記者もぼうぜん。実績があっても偉ぶらず、親しまれていただけに「吉田にだけは勝ってほしかった」という声も上がった。それでも記者は敗因を丹念に質問し、本人も涙をこらえながら丁寧に答えた。それぞれ、真剣に敗戦に向き合っていた。

 <北島忠輔> 競泳の萩野公介(東洋大)が男子400メートル個人メドレーで日本勢金メダル第1号を獲得し、選手団を勢いづけた。

 <高橋> エースが狙って取った金だった。若い力が台頭する女子で、金藤理絵(Jaked、ぎふ瑞穂SG)らベテランが表彰台に上った姿も感動した。その中で最も心に残ったのが瀬戸大也(JSS毛呂山)の潔さ。出場2種目で同い年の萩野、早大の後輩の坂井聖人にそれぞれ先着を許しても「自信はあったが、自分よりもたくさんの人が努力してきたことが今回の順位だと思う。素直に受け止めたい」とすがすがしかった。

 <福田> 前回大会は不振だった柔道も復権した。

 <井上仁> 競技最終日、男子の井上康生監督が男泣きした。前回大会で男子は屈辱の金メダルなし。「お家芸」復活を担う重圧は筆舌に尽くしがたいものがあっただろう。青年監督の髪に白いものが目立つ時期もあった。選手たちも「井上ジャパンの誇り」を口にした。監督と選手の信頼関係が、全階級でメダル獲得という快挙の原動力だった。

◆お家芸以外が歴史的な快挙

 <鈴木> 苦戦気味だった陸上で、男子400メートルリレーが歴史的快挙を成し遂げた。

 <森合> 銀メダルには興奮した。「銀」はインパクトがあったようで、多くの海外の記者から祝福された。特にアンカーを務めて米国(失格)に先着したケンブリッジ飛鳥(ドーム)は注目度は高く、囲み会見が終わった後「内容を教えてくれ」と言われるほどだった。

 <福田> カヌーの羽根田卓也(ミキハウス)が取った銅メダルも称賛される。

 <中野> 欧米勢がメダルをほぼ独占してきた種目で、10年間のスロバキア留学を実らせた。選手が皆で羽根田の艇にこぎ寄り、スタンドからも大歓声が沸いた。アジア人の快挙を会場全体で祝う様子が感動的だった。

 <北島> 過去最多のメダルは、「お家芸」以外の競技が活躍したから。

 <森合> そういう意味では重量挙げ女子、三宅宏実(いちご)の銅メダルには胸を打たれた。3回目のジャークを挙げたとき、取材陣はみんな泣きそうになっていた。第2日なのに「もう五輪が終わってもいい」と言っている記者もいた。半年間、ずっと腰痛で苦しんでいたから奇跡。でも、その奇跡が起こるのが五輪。個人的には、三宅がバーベルをほおずりしたシーンは今大会のベストシーン。

◆フェンシング、新時代感じた

 <高橋> バドミントンも初の金、初のシングルスのメダルと初づくしだった。

 <井上> 金メダルを獲得した女子ダブルスの松友美佐紀(日本ユニシス)が、意外な理由で涙を流した。「五輪で最後と決めている選手がたくさんいて、それがつらくて」。強いペアと戦って自分たちの力を試したい。その格好の相手である中国ペアは今大会を最後に一線を退くとみられ、もう戦えない。まるで漫画の主人公のような心意気が、「タカマツ」の2人を金メダルに押し上げた。女子の活躍を見るにつけ、4月に発覚した男子選手らの違法賭博問題が悔やまれた。彼らは今回の五輪を見ただろうか。そして何を感じたか、いつか聞いてみたい。

 <中野> 卓球も男女ともにメダルを獲得した。

 <井上> 正直、男子の成績が女子を上回るとは想像していなかった。立役者の水谷隼(ビーコン・ラボ)は、今大会で国内に最も名を売った日本選手では。日ごと強気になっていくコメント。ガッツポーズに対する賛否、日本初の個人戦メダル、お笑い芸人に似ているなど…。「根暗に思われている卓球のイメージを変えたい」という本人も、この騒がれ方を楽しんでいるようでほほ笑ましかった。

 <高橋> 男子テニスの錦織圭(日清食品)も日本勢96年ぶりのメダル。四大大会とは違う姿を見せてくれた。

 <北島> 錦織は「メダルを狙う」とあえて重圧をかけ、自分を試していた。その中での銅メダルは大きな自信になっただろう。「メダルがかかる選手のプレーや振る舞いをみて、刺激を受けた」とも話しており、五輪特有の雰囲気の中で「成長したのを感じた」という言葉は正直な感想だと思う。

 <鈴木> ロンドン大会でメダルを取ったが、今回は逃した競技もあった。

 <森合> これまで五輪で存在感を示してきたフェンシング男子フルーレ太田雄貴(森永製菓)の初戦敗退は驚いた。国内ではなじみのないエペが活躍したのはフェンシングの新しい時代を感じさせた。特にママさんの佐藤希望(大垣共立銀行)が8強入りしたのは、若い選手や結婚後に競技を続行するか悩む選手に希望を与えると思う。

◆中部勢の活躍、東京に期待感

 <高橋> サッカー男子は初戦のナイジェリア戦で5失点。高温多湿、ガの大軍の襲来に悩まされたマナウスで、まさかの守備崩壊に嫌な汗が止まらなかった。浅野拓磨(アーセナル)がストライカーの資質を見せてくれたのが救い。ただ、ジャガーポーズが見たかった。

 <北島> フェンシング佐藤は福井、サッカー浅野は三重の出身。他にも中部勢が目立った大会だった。

 <中野> レスリング女子は6階級の代表を独占した愛知の至学館大勢(卒業生を含む)がメダルを5個取り、東京五輪に向けての強化拠点として相変わらず存在感を放つことになる。

 <鈴木> 20年ぶり8強のバスケットボール女子は、エース渡嘉敷来夢(シアトル・ストーム)ら3人が愛知・桜花学園高出身。所属チームが愛知、静岡にある選手を含めると12人中7人が中部にゆかりがあり、間違いなく快進撃の中核を担った。

 <高橋> 大会直前に左足の違和感に見舞われた陸上女子の鈴木亜由子(愛知県豊橋市出身、日本郵政グループ)には胸が痛んだ。ずっとけがと闘ってきた競技人生。よりによって、と思った。母由美子さんの「あの子らしいと言えば、そうですね」という一言も忘れられない。それでも5000メートル予選を走り切った。「このままでは終われない」。いつも通りの小さな声を信じている。

◆南米初の五輪、無事に幕下りた

 <北島> 南米初の五輪。うまくいくか不安もあったけど、無事に終わった。

 <中野> 開会式は日本時間8月6日、広島に原爆が落とされた時刻をまたいで開かれた。平和記念式典と同時間帯に日本移民を意識した演出があったのは印象的だった。ブラジルに190万人いるとされる日系人の存在感の大きさも改めて知った。閉会式では、スーパーマリオやキャプテン翼にブラジル人観客も大いに盛り上がった。日本発のアニメ、ゲームの強さを感じた。東京五輪では、世界に通用する生身のヒーローが大勢登場してほしい。

 <福田> 大会は順調だったとはいえ、五輪中心に街が動く中、一般市民への想像力の大切さを感じた。特に交通のまひ。自分はメディア向けの宿泊施設を利用しなかったため、深刻さに直面した。五輪専用レーンで車線が減り、もともとひどい渋滞が悪化。いっこうに競技場に近づけず、タクシーを降りて夜道を歩いたり、観戦客らですし詰めのバスに駆け込んだりした。

 <井上> 東京五輪に向けても大きな課題だ。

 <福田> 小池百合子都知事も、会見で交通問題を早急に精査すると述べた。膨らむ予算の問題もあり、課題は多い。

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