紙面から

<クローズアップ> 代表内定、早過ぎても…

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 多くの選手が望む五輪切符は、早く渡せばいいというものでもないらしい。金メダル12個を含む過去最多のメダル41個を第16日までに獲得したリオ五輪の日本選手団。実力者が準備しやすいように早期内定を出した競技団体もあったが、期待通りの結果ばかりではなかった。

 金メダルを取った日本選手のうち、実質的に代表一番乗りを果たしたのはレスリング女子の4選手。昨年9月の世界選手権でメダルを獲得してほぼ切符を手中に。12月の全日本選手権に出るだけで代表に決まった。10月には、世界選手権を制した体操男子個人総合の内村航平(コナミスポーツ)も内定。この5人は、競技団体の思惑通りに実力を発揮し、頂点に立った。

 前年世界選手権の成績で内定を得ながら、力を出し切れなかった選手もいる。競泳では昨年8月の世界選手権で3人が金メダルで代表を決めたが、女子200メートル平泳ぎの渡部香生子(JSS立石)は本番で準決勝敗退と不振だった。

 2000年シドニー大会の競泳代表選考をめぐるトラブルを経験した日本水連は04年アテネ大会から、4月に行う日本選手権での一発勝負に切り替えた。独自に定めた派遣標準記録を切って2位以内という選考条件を設定。その緊張感が、五輪でも一定の結果を残してきた。

 2大会前からは一発選考以前に、前年の世界選手権で内定する道もつくった。08年北京大会は決勝で世界記録樹立、12年ロンドン大会以降は優勝が内定条件だったが、2大会とも該当者なし。早期内定はリオが初めてだった。代表の平井伯昌コーチは「果たして正しかったのか議論していくことでもあるし、持ち帰って水連で吟味したい」と見直しにも言及した。

 マラソンでは今回、前年世界選手権での内定基準がこれまでのメダルから入賞に緩和された。11年女子5位の赤羽有紀子ら力のある選手が結果的に代表から漏れ、ロンドン大会の成績もふるわなかった。今回は昨夏の世界選手権で女子7位の伊藤舞(大塚製薬)が早々と内定したが、リオでは日本勢最下位の46位。伊藤は「結果が出ずに申し訳ない」と反省を口にした。

 男子50キロ競歩では昨年世界選手権銅メダルで内定した谷井孝行(自衛隊)が日本勢2位の14位。こちらも、早期内定のアドバンテージを生かしきれなかった。

 競泳の11年世界選手権男子400メートル個人メドレーの銅メダリストで、ロンドン大会で6位に入賞した堀畑裕也さん(26)=愛知・豊川高教諭=は「五輪の年は緊張感を持つことができるが、前の年に内定が出ると安心してしまうのでは」と指摘。「競泳のように複数種目を掛け持ちする選手が多い競技だと、内定を得ることで別の種目に力を入れられる利点と、得意種目がおろそかになる欠点の両方が考えられる。個人的には早期の内定は不要だと思う」と話す。

 4年後の東京五輪は地元開催だけに、選手への重圧も大きくなる。選手が本当に力を出しやすくなる選考基準とは何か。各競技団体の試行錯誤は続きそうだ。

 (吉岡雅幸)

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