紙面から

遺影の母、見届けた 競歩・荒井選手、兄2人が沿道へ

陸上男子50キロ競歩で、母の遺影を掲げて荒井広宙選手を応援する兄英之さん

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 “母”に見守られてのゴールだった。陸上男子50キロ競歩で、荒井広宙(ひろおき)選手(28)が終盤の激しい競り合いを制し、三番目でゴールすると、沿道で見守っていた兄英之さん(37)が母繁美さんの遺影を大きく天に掲げた。もう一人の兄康徳さん(33)は横断幕を手に満面の笑み。「夢みたい」と二人で声を弾ませた。

 実家がある長野県小布施町から駆け付けた。周回コースの沿道の柵に日の丸を並べ、荒井選手が通るたび「がんばれ〜」と声を限りに叫んだ。

 卵巣がんを患っていた繁美さんが亡くなったのは昨年十一月のこと。六十三歳。早すぎる。荒井選手が大学卒業後、就職せず競歩に専念できたのは、母と父康行さん(67)が農作業をして、仕送りしてくれたおかげ。「かあちゃんはいっつも広宙のことばかり心配していたなあ」と英之さんは振り返る。

 「リオに行きたい」と五輪での応援を夢見ていたという繁美さん。兄たちは、いい笑顔をしている写真のかあちゃんを連れてきた。

 一時失格とされるなど、後味の悪いレースになったが康徳さんは「逆に余計メダルがうれしくなった」と笑う。「天国から地獄に落ち、また天に昇った気分」だったという英之さんは「やっぱりかあちゃんは見守ってくれていた」と胸をなで下ろしていた。

 (兼村優希、写真も)

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