紙面から

減量失敗の教訓を糧に 「銀」の樋口選手

レスリング男子フリースタイル57キロ級決勝 表彰式で、優勝したウラジーミル・キンチェガシビリ選手(右)の金メダルを見る樋口黎選手=19日、今泉慶太撮影

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 レスリング男子フリースタイル57キロ級で銀メダルを獲得した樋口黎選手(20)=日体大=にとって、減量に苦しんだ時期があった。

 昨年六月。世界選手権の代表選考会となる全日本選抜選手権を数日後に控えた樋口選手は、日体大の練習から帰る途中の道端で倒れ、住民に発見された。

 世界選手権でメダルを取ればリオ五輪代表にほぼ決まるだけに、代表選考会は競技人生を変える試合。それなのに減量が進んでいなかった。「知識がなく、ケーキなど甘いものを食べながら水分量だけを減らそうとしてしまった」。脱水症状を起こして動けなくなった。

 救急車で病院に運ばれた。駆けつけた日体大の松本慎吾監督は「ベッドでガタガタと震えていた」。点滴を打ったため絞った体重は戻り、計量をパスするのは不可能となった。「本当にばかだった」と樋口選手。高校時代に主要大会三冠を果たしたホープに、周囲の厳しい目が注がれた。

 天才的なセンスはあるが自己管理に難があった。野菜嫌いで甘党、睡眠時間も不規則。目標とした舞台を戦わずして失いかけ、目が覚めた。「意識が変わった。日常に何かが足りないから結果を出せないと気付いた」

 世界選手権の57キロ級に出場した別の選手が五輪出場枠を獲得できず、チャンスが残った。菓子の量を減らしてバランスのある食事を取ることで体調が安定し、昨年末の全日本選手権で優勝。今年三月の五輪アジア予選で優勝し、リオへの切符を手にした。

 南米でも減量にやや苦しみながら計量はクリア。「ちゃんと野菜を食べていて良かった」。マットでの動きは切れ、初戦で二年前の世界選手権優勝者、準決勝で三年前の王者を破っての銀メダル。「金を狙っていたので悔しいが、持てる力は出せた」。さらに技と生活に磨きをかけ、四年後の東京の王者になる。

 (鈴木智行)

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