紙面から

沙保里の笑顔、待っている

決勝で敗れた吉田沙保里選手の肩に手を置く兄栄利さん=18日、リオデジャネイロで(内山田正夫撮影)

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◆「ごめんなさい」号泣

 日本中と約束した金メダルを逃して号泣するヒロインを母や兄が優しく抱き寄せた。リオデジャネイロ五輪で18日(日本時間19日)、五輪4連覇を目指したレスリング女子53キロ級の吉田沙保里選手(33)が決勝で敗れた。「みんなのために」。重い責任を胸に闘い抜いた日本選手団の主将に、だれもが口をそろえた。「お疲れさま。涙を拭いて」

 「ごめんなさい」「取り返しのつかないことになってしまって」「自分の力が出し切れなくて、申し訳ない」

 二〇〇一年から続けてきた個人戦の連勝が二百六で止まった吉田沙保里選手は、敗戦直後のテレビインタビューで、おえつをこらえながら何度も謝罪。心中にのしかかっていた期待と責任の重さがにじみ出た。

 吉田選手は昨年、五輪と世界選手権を合わせた世界大会で前人未到の十六連覇を達成。二〇一二年の世界選手権で男子のアレクサンドル・カレリン氏(ロシア)の記録を抜き、男女を通じ最多優勝回数のギネス世界記録に認定されると、その後も自らの記録を更新した。

 ともに日本のレスリング界を引っ張ってきた伊調馨選手は、〇八、〇九、一二年の世界選手権を欠場。吉田選手は五輪四連覇を果たした伊調選手でさえ届かぬ頂に一人で立ち続けた。

 試合終了のブザー。吉田選手はマットに倒れ込み、二十秒以上、突っ伏したままだった。表彰台で銀メダルを首にかけられても、涙が止まらない。テレビ各社や新聞、雑誌のインタビュー、記者会見と続き、一時間近くも泣きながら、しかし丁寧に答え続けた。追われる立場のつらさを問われると「もちろん、それは恐怖。打倒吉田で皆、来るので、プレッシャーはすごいあった」と告白した。

 「昨日カオリン(伊調選手)が四連覇をして、とてもうらやましくて。一緒に四連覇しようって言ってたのに…」。海外メディアに東京五輪について問われると「今のところまだ分かりません」と明言を避けた。

 (中野祐紀)

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