紙面から

最後まで攻め、悔いなし レスリング男子フリー57キロ級・樋口「銀」

男子フリー57キロ級決勝 ジョージアのキンチェガシビリ(下)と対戦する樋口黎=今泉慶太撮影

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 もし頂点に立っていれば、日本レスリング男子で史上最年少の金メダルだった。初の五輪で一気に頂点へ駆け上がろうとした20歳だったが、一歩及ばなかった。

 壁を痛感したのは決勝だった。「今の僕の攻めでは、彼の守りを超えられなかった」。昨年の世界選手権王者のキンチェガシビリと30秒近くにらみ合った後、タックルで右足をとらえた。そのまま背後に回って足を引き上げたが、相手は片足で耐える。30秒近く攻め続けながら崩しきれず、無得点でプレーは止まった。

 その後もさほど苦労せず足はつかめた。ただ、得点になかなか結び付けられない。リードを奪った相手は、反則を取られるぎりぎりまで樋口の腕をつかみ、したたかに動きを封じた。そのまま試合終了。若き挑戦者は抗議するように両手を広げたが、結果は覆らなかった。

 「タックルのタイミング、相手の重心のバランスを見る感覚は誰にも負けていない」という持ち味は、世界の舞台でもかなり通じた。準決勝では、女子の伊調馨(ALSOK)も憧れるイランの名手ラヒミを圧倒し「彼の片足タックルが世界一なら、僕のもそう言われないかな」と強気な言葉も出た。

 「一番じゃなければ駄目だと自分に言い聞かせてやってきた。悔しい部分はあるけど、攻める形は崩さなかったので後悔はない」。表彰台に上がる前は顔を覆うしぐさも見せたが、台の上の表情は穏やかだった。

 (鈴木智行)

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