紙面から

川井、熱く鋭く 次世代のエースへ自覚

女子63キロ級決勝 ベラルーシのママシュク(下)を攻める川井梨紗子=隈崎稔樹撮影

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 大一番を制したマットに座り込み、手で顔を覆った。泣いているのか。すぐに立ち上がった川井は満面の笑み。小躍りして駆け寄ってきた栄和人チームリーダーをかついで、2度投げ飛ばした。「決勝前に『投げさせてください』と言っておいた。最初は一回のつもりでしたが、勢いで」。その後、恩師を肩車。ウイニングランに酔いしれた。

 本来は58キロ級。しかし、女王の伊調馨の壁は厚く、周囲の勧めで、初の五輪は一階級上の63キロ級で挑戦。激戦を突破し、リオにやって来た。計量時点で体重はリミットより1キロ軽い。「重いというより力が強い」と感じる対戦相手に、スピードで勝負を挑む。

 決勝も圧勝だった。得意とする組み手で優位に立ち、軽快なフットワークで翻弄(ほんろう)。鋭いタックルからバックを取って得点を重ねると、終了間際にはスタミナが切れたママシュクから駄目押しのポイントを奪った。

 先に行われた53キロ級決勝で、吉田が敗れた。無敵を誇った大先輩が五輪4連覇を逃した。「びっくりした。何が起こるか分からない」。自らの決勝を前に、強い衝撃を受けた。「絶対に自分は金メダル取りたいという思いを、ブレさせないようにしていた」。気持ちを切り替えて、大胆に熱く戦った。

 「リオに入ってから、間違いなく一番調子が良かった」と目を細めた栄チームリーダーが、階級変更を強く勧めた張本人。川井は「さまさまです。へへへ」と笑った。

 22歳の登坂、21歳の土性に続き同じ21歳の川井が金メダルを獲得。屋台骨を支えてきた吉田が敗れる悲しいニュースの裏で、女子レスリング界は着実に世代交代が進む。

 「引っ張っていくというか(登坂)絵莉さんがすごく練習を頑張る人なので、自分もそれについていこうと。それを見て、さらに下の子がついてきてくれればうれしい」。次世代の旗手として、自覚も芽生える金メダルだった。

 (高橋隆太郎)

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