紙面から

絶対女王が五輪初黒星 伏兵との決勝に油断

女子53キロ級決勝 米国のマルーリス(手前)に敗れた吉田沙保里=今泉慶太撮影

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 残り1秒。最後のタックルは右脚をとらえたが、敵は倒れなかった。終了のブザーが鳴ると33歳の「元女王」はそのままマットに顔を伏せ、肩を震わせた。「最後の最後に負けてしまった。ここに落とし穴があるとは思わなかった」と吉田。2002年に世界選手権を初制覇して以来、立ち続けた場所から降りるときがきた。

 過去3年の世界選手権で決勝を戦ったソフィア・マットソン(スウェーデン)が準決勝で敗れた。勝ち上がってきたマルーリスとは11、12年の世界選手権で当たり、いずれもフォール勝ちしていた。

 「マットソンが上がってくると思っていた。気を抜かないようにと思っていたけど」。タックルで何度も足を取った。いつもは確実にポイントを奪う場面でも、強引に起き上がろうとする相手を押さえられない。第2ピリオド序盤に1−2と逆転され、残り1分で2点を加えられると万事休した。「最後は勝てるだろうと思っていた。取り返しのつかないことになった」

 4度目の五輪を控え、不安は少なくなかった。昨秋に発症したぜんそくは一時期治まっていたが、国内での大詰めの合宿中に再び症状が表れたという。左肩など慢性的なけがも多く、7月には股関節を痛め、体を追い込み切れなかった。

女子53キロ級決勝 吉田の五輪4連覇はかなわなかった=内山田正夫撮影

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 昨年末の全日本選手権を最後に試合に出ておらず、実戦勘も心配された。「海外選手の研究材料はもらっていたので大丈夫だった」と振り返ったが練習相手は限られ、海外勢のパワーや格闘スタイルに触れる機会からは遠ざかっていた。

 「主将の役割を果たせなかった。声援もすごく聞こえてきたが、力を出し切れず申し訳ない」。取材エリアでは、テレビカメラやマイクを向けられるたびに頭を下げた。何度繰り返しても、涙は止まらなかった。

 (鈴木智行)

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