紙面から

女子レスリング、至学館魂で大逆転

(左)69キロ級金メダルの土性沙羅=内山田正夫撮影 (右)レスリング女子48キロ級で金メダルを獲得した登坂絵莉=隈崎稔樹撮影

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 ぎりぎりの勝利だった。けれど、たまたまでは決してない。登坂絵莉(22)、伊調馨(32)、土性沙羅(21)三選手が金メダルを獲得し、女子レスリング王国の健在ぶりを世界に知らしめた日本。決勝ではいずれも相手にリードされる展開から残り1分以内で逆転してみせた。

 金メダルトリオに、十八日(日本時間同日夜)に登場する吉田沙保里(33)らを加えた代表の六選手は全員が至学館大(愛知県大府市、旧中京女子大)の現役生かOB。王国の砦(とりで)といえるレスリング部には、おきてがある。最後の1秒、いや、まばたきに満たない刹那まで、勝負を諦めないこと−。栄和人監督の指導でたたき込まれた魂が、劇的な三連勝を生んだ。

 「世界一強い選手が集まる至学館のマットで目立てるってことは、自信持って『金メダル取る』って宣言していいってことなんです」

 今春就職した後も母校のマットで練習を積むレスリング部前主将の登坂は、そう信じる。

 ALSOKを退社してフリーになった吉田をはじめとする卒業生のトップ選手が在校生、付属高校生と入り交じって鍛える道場に敷かれたマットは、試合場にして二面分。一見、適度に散らばって組み合っているように見えて、登坂によると暗黙の厳しいヒエラルキー(階層)がある。「私なんて最初、ずーっと奥の奥のはじっこでスパーリングしてましたもん」

 二面のうち、栄監督は片方の真ん前のいすに座る。目の前は、十年以上前から吉田の定位置で、力のある者から順に、近場に陣取る。「はじっこ」は監督から三十メートルも離れた「全然練習を見てもらえないところ」だ。

 世界レベルの大会で通用する可能性を認められて初めて間近で監督の指導を受けられる。そのためにはパワーやテクニックだけでなく「負けず嫌いで諦めない、うちの魂」(栄監督)を体現する選手でなければならない。

 現主将の土性は試合後、逆転勝利について問われ、さらりと答えた。「諦めない、なんて当たり前ですから、そこは驚くところじゃないです」

 (中野祐紀)

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