紙面から

メダル奪還、陰に名伯楽 井村監督、時代見極めた構成

シンクロ・デュエット・フリールーティン決勝 演技を終えた乾(右)、三井両選手を満面の笑みで迎える井村監督=16日、リオデジャネイロで(共同)

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 猛練習で培った強く美しい演技をやり遂げた二人を、こわもての「シンクロ界の母」が笑顔でぎゅっと抱き締めた。リオデジャネイロ五輪は十六日、シンクロナイズドスイミングのデュエット決勝で乾友紀子選手(25)と三井梨紗子選手(22)が、井村雅代監督(66)への最高のプレゼントとなる銅メダルを獲得した。バドミントンの女子シングルス準々決勝は日本人同士の勝負となり、観客席では双方の家族や恩師の応援合戦が爽やかに繰り広げられた。

 十六日は井村監督の誕生日だった。参加九大会目にして初めて誕生日とぶつかったという決勝で、乾選手と三井選手が三位に。二大会ぶりに日本に取り戻した銅メダルを二人にかけられ「忘れられない日になった」。涙を光らせたその目こそ、名伯楽が誇る最大の武器だった。

 「私にはメダルが取れる演技が見えている」

 本格始動した昨年二月、井村監督は言い切った。ロサンゼルス五輪から六大会連続で日本をメダルへと導き、中国や英国でも手腕を振るった。ロンドン五輪でメダルなしに終わった日本を、世界のシンクロ界の隅々まで見てきた目にかなうレベルに再び押し上げるにはどうすればいいか。「ゆるキャラ。今の平和な日本の象徴みたい」。闘争心に欠ける選手たちを鍛え上げることに迷いはなかった。

 十六日間組んだある合宿で、休養日は一日のみ。世間が週休二日なら「それと一緒じゃあかんでしょ」と涼しい顔をした。一日十時間を超える猛練習は当たり前。三井選手は「毎日が地獄だった」と振り返る。

 移りゆく時代も見極める。プログラムにスピード感を重視したのは「世の中がそうだから。すぐに知りたい、すぐに分からないと許せない。上質なものより速さ。それは無視できない。五輪はシンクロ好きの人だけが見ているわけではない。観客を巻き込むとはそういうこと」と説明した。

 やって来たリオ五輪。デュエット決勝に向かう二人を「言った通りに泳いだら、絶対に勝てるようにつくってある」と送り出した。信じて体現した二人はライバルのウクライナを逆転し、銅メダルを持ち帰った。たくましくなったまな弟子の姿に、目尻が下がった。

 (高橋隆太郎)

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