紙面から

技、亡き恩師と磨いた 女子レスリング69キロ級・土性が初V

女子69キロ級決勝 ロシアのボロベワ(左)を破り喜ぶ土性沙羅=今泉慶太撮影

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 警告の失点を重ね0−2。残り40秒を切っていた。女子69キロ級決勝。あとがない土性は覚悟を決めた。亡き恩師に授けられたタックルを決めずにマットから降りるわけにはいかない。相手の左足に絡み付き、尻もちをつかせた。2得点。残り30秒で追いついた。

 そのまま試合終了。より高いポイントを奪った土性の優勢勝ち。「決勝でもしっかりとタックルで逆転でき、金メダルを取ることができた。教えてくださった吉田先生に感謝したい」。天国からも見えるような、跳ねながらのガッツポーズを決めた。

 小学生時代に競技を始めた津市の「一志ジュニア教室」。そこで手ほどきを受けたのが、吉田沙保里の父栄勝さんだった。仕込まれたタックルがやがて、自らをトップ選手へと押し上げてくれた。リオにたつ前、2年前に他界した栄勝さんの墓前で手を合わせた。「絶対に金メダルを取って、また来ます」

 そのタックルからの積極的な攻めが初戦からさえた。どんどん前に出て4連勝。そして決勝。「大丈夫だよ。いつも通りやれば」。アップの最中、栄勝さんの声が聞こえたような気がした。

 昨年の世界選手権金メダルのボロベワは、試合巧者ぶりを発揮。159センチの土性は上から押さえ込まれるように、攻め手を封じられた。2点をリードされたが「いつか逆転できる。諦めずに攻めよう」。気持ちを切らさずうかがった好機を、磨き上げたタックルで切り開いてみせた。

 世界選手権では2013年から3年連続でメダルを獲得。しかし、金とは縁がなかった。ようやく世界の頂点に上り詰めた。それも一志ジュニア教室の先輩で、ずっと背中を追いかけてきた吉田が既に三つ持つ五輪金メダル。自らの手でつかみ取り「重いですね」と笑った。

 一番高い表彰台からは、会場で応援してくれた人たちの顔がよく見えた。そして栄勝さんから「よくやった」と言ってもらえた気がした。

 (高橋隆太郎)

 <土性沙羅>(どしょう・さら、至学館大=レスリング女子69キロ級)世界選手権は13年3位、14年2位、15年3位。愛知・至学館高出。159センチ。21歳。三重県松阪市出身。

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