紙面から

無我夢中、追いすがる 女子48キロ級・登坂鋭く初V

女子48キロ級決勝 アゼルバイジャンのスタドニクを破りガッツポーズする登坂絵莉=内山田正夫撮影

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 先輩として尊敬する女子53キロ級の吉田沙保里のように、豪快に敵をさらってしまう強さではない。48キロ級の登坂は2ピリオド6分間のどこかで勝機を見いだし、その一瞬で切り捨てる鋭さで五輪の金メダルを手にした。

 昨年の世界選手権(ラスベガス)に続き、決勝にはロンドン五輪銀メダルのスタドニクが待っていた。前回は敵の攻撃をしのぎにしのぎ、終了間際のタックルで逆転勝利。「二度とできない勝ち方」と言い切り、「今回はこちらが先制し、反撃に来たところにカウンターを仕掛ける」ともくろんだが、甘くなかった。

 「世界選手権と五輪は相手も違う力を出してくると聞いていた。やはり違った」。4年前に小原日登美さんに敗れた28歳は、頭突きも交えながら激しくぶつかってきた。「パニックになりかけた」。第1ピリオドにタックルで場外に運ばれ1失点。第2ピリオドは警告で1点を取り合い、1−2のまま終盤を迎えた。

 違いは一つあった。セコンドに付いた栄和人チームリーダーは「今回は自分からも仕掛けて重圧をかけた。それで相手が疲れてきた」。その分、自分も体力が尽きかけていた。前回は残り時間を計算しながらの攻撃。この日は「何も覚えていない」。残り11秒、相手の右足をつかんだ。

 悪夢がよぎった相手は覆いかぶさったり、後ろに下がったりして逃れようとした。それでも残り5秒で背後に回って押し倒した。得点掲示板に2点が入り、3−2と表示されたのは残りわずか2秒だった。

 決勝の直前、栄チームリーダーに「五輪は楽しいか」と聞かれ、とっさに「はい」と答えた。そんな気分ではなかったと言うが、戦いを終えると迷いなく口にした。「苦しいけど、楽しかった」。緊張から解き放たれた表彰台で、君が代を口ずさみながら涙した22歳の実感だった。

 (鈴木智行)

 <登坂絵莉>(とうさか・えり、東新住建=レスリング女子48キロ級)13年から世界選手権3連覇。14年仁川アジア大会優勝。全日本選手権は4度制した。愛知・至学館高、至学館大出。152センチ、53キロ。22歳。富山県高岡市出身。

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