紙面から

攻めてきた「ラストチャンス」 女子58キロ級・伊調、冷静のV4

女子58キロ級で4連覇を達成、日の丸を広げて喜ぶ伊調馨=共同

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 偉業を目前にし、女王は追い詰められていた。この日のために磨いてきた多彩な攻撃を披露できず、試合の主導権も握れないまま刻々と時は過ぎていく。最後に頼ったのはすでに三つの金メダルをつかんできた経験と勘。とどめを刺しにきた相手を冷静に仕留めた。

 「自分が攻めにいくことを考えていたけど、相手が攻めてきた。ラストチャンスかなと思った」。1−2で残り30秒。タックルで右脚を捉えられた。片足でこらえながら、頭を巡らせた。「これを切ったら勝てる」

 相手の上に覆いかぶさり、左足を背後からつかんだ。そのまま体勢を入れ替えながら脚を伸ばすと、相手の両腕が外れた。背後を取って3−2。先に決勝を終えた登坂に続くように、残り3秒での逆転劇を演じた。

決勝でロシアのコブロワゾロボワ(左)に逆転で判定勝ちした伊調=隈崎稔樹撮影

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 審判に手を上げられても、なかなか勝者の表情はつくれなかった。「もっといい試合をしたかった悔しさと、申し訳ない気持ちでいっぱい」。2012年ワールドカップで吉田沙保里を倒したこの相手とは、14年世界選手権で対戦して勝利。自分を徹底して研究してきた相手の守りは堅く、第1ピリオドは無理に脚を取りにいってカウンターを食らった。

 自己採点は、昨年の世界選手権の「25点」を下回るかと思われたが「金メダルに免じて30点」。今年1月の13年ぶりの敗戦で周りを心配させ「五輪は勝ちにもこだわる」と戒めただけに、期待に応えた自分を評価した。「ただ、レスリング選手としては『出直してこい』という感じ」。4度目の栄冠とともに、競技の新たな奥深さにも巡り合えた。(鈴木智行)

◆世界選手権は10度優勝

 <伊調馨>(いちょう・かおり、ALSOK=レスリング女子58キロ級)五輪は63キロ級で04年アテネから08年北京、12年ロンドンと3大会連続の金。世界選手権は10度優勝。愛知・中京女大付高(現至学館高)、中京女大(現至学館大)出。166センチ、61キロ。32歳。青森県八戸市出身。

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