紙面から

白井、土壇場で新技決めた

 また一つ体操を進化できたことがうれしかった。「銅メダルにびっくりじゃなくて、あの3回半を跳べたことにびっくり」。初の五輪で最後の演技となった種目別跳馬で、白井は自分だけでなく世界を驚かせた。

 2013年に発表した「シライ/キム・ヒフン」から、ひねりを半分増やした「伸身ユルチェンコ3回半ひねり」。Dスコア(演技価値点)は前者の6・0点から6・4点に跳ね上がる。種目別の勝負に必要な技と見定め、ことしから本格的に練習してきたが、6月の全日本種目別選手権ではひねりが足りず失敗していた。

 注目の1本目。白井は本命視されながら4位に終わった前日の床運動から一転、軽やかな助走から踏み切った。「気持ち良くやろうと思っていた。挑戦者の気分で」。練習では体の回転方向にしばしば足を踏み出し、減点となるラインを越えていたが、この日は踏みとどまった。

 代表コーチとして帯同する日体大の畠田好章監督が「練習を通じても初めてラインオーバーがなかった」という鮮やかな実施。Eスコア(実施点)も9・433点を稼ぎ、合計点で全体トップとなる驚異的な15・833をマークした。

 2本目との平均で世界選手権を4度制覇したマリアン・ドラグレスク(ルーマニア)と並んだが、同点の場合はいずれかの跳躍で点数が高い選手が上位となる。果敢に挑んだ大技が表彰台につながった。

 相変わらず、技に自分の名前が付くことに興味はない。「FIG(国際体操連盟)さんからのプレゼント。自分が大きな壁を乗り越えたご褒美だと思う」。過去の栄光を振り返らない白井らしい言葉だった。

 (鈴木智行)

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