紙面から

“不屈の女王”小原さんを追って レスリング太田選手

男子グレコローマン59キロ級で銀メダルを獲得した太田忍選手=いずれも14日、リオデジャネイロで(内山田正夫撮影)

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 不屈の女王に闘志をかき立てられた若者が、日本男子レスリング界を救った。男子グレコローマンスタイル59キロ級で銀メダルを獲得した太田忍選手(22)は小学一年の時、ロンドン五輪女子48キロ級を制した小原日登美さん(35)と同じ青森県八戸市の「八戸キッズ」で競技を始めた。苦労の末に世界を制した先輩の生きざまに憧れ、ついに同じ五輪メダリストとなった。

 「日登美さんみたいになりたいと思い、マット上の礼儀などをまねしてきた」

 中京女子大(現至学館大、愛知県大府市)に進んだ小原さんが世界選手権で活躍し始めたころ、太田選手は小学生。「クラブの合宿に遊びに来て、スパーリングもしてくれた」。小原さんも、勝ち気を発散していた男の子をよく覚えている。「いきなり『呼び捨てにしてもいい?』と聞いてきたりして。ちょっと生意気なところがありましたね」

 小原さんは二〇〇八年北京五輪の代表を逃し、同年の世界選手権(東京)優勝を花道にいったん引退した。会場で観戦した中学三年の太田選手は「優勝して何でやめるんだ。まだまだやれるのに」と残念がった。

 翌年、小原さんも指導したクラブ代表の勝村靖夫さん(74)が山口県に帰郷したのに合わせ、太田選手も山口にレスリング留学。しばらくして、妹の真喜子さん(30)を指導していた小原さんが、妹の引退に伴って復帰したと聞いて驚いた。

小原日登美さん

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 日体大に進んだ一二年夏、身近だったお姉さんは三十一歳でロンドンの頂点へ。「信じられない。第一線を退いてから復活して、五輪で優勝して。雲の上のような存在になった」。あこがれはさらに強くなった。

 身体能力が高くても精神的にむらがあるのが欠点だったが、強豪大学の猛練習で克服した。昨年末の全日本選手権を制し、今年三月の五輪アジア予選を勝ち抜いてリオへ。勝村さんが見守る前でメダルを手にし、引退後は母親として奮闘する小原さんに朗報を届けた。

 「小原さんは金で、自分は銀。まだまだ遠い存在です」。四年後、東京五輪で肩を並べてみせる。

 (鈴木智行)

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