紙面から

敵を惑わせ、一撃 “ニンジャ”太田、鮮烈

男子グレコローマン59キロ級決勝 キューバのイスマエル・ボレロモリナ(左)に攻められる太田忍=内山田正夫撮影

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 攻められたはずがいつの間にか相手を組み伏せる。素早い身のこなしで、海外メディアから「ニンジャ」と例えられたことがある。「無我夢中だった」。太田の巧みな術(すべ)が、歴戦の猛者を次々と絶望へと引き落とした。

 1回戦のロンドン五輪の55キロ級覇者、ソリアン(イラン)戦の見せ場は0−4の第2ピリオド中盤。組みついてきた相手と体を入れ替え、腕を取って投げ捨てた。あっけにとられた相手は途端に逃げ腰に。残り10秒、太田の胴タックルに背中を向けて場外に飛び出した。今年3月のアジア予選に続く殊勲の勝利となった。

 「これで緊張がほぐれ、勢いに乗れた」。昨年の世界選手権3位、ケビスパエフ(カザフスタン)に対した2回戦も動きがさえる。自身が消極性の警告を受け、相手に寝技で攻められたが、逆にポイントを奪って主導権を握った。

 敵を幻惑するだけでなく、いざとなれば研ぎ澄まされた刀を振るう。相手の上体を抱えれば得意の「がぶり返し」がある。「自信を持って出せる技が要所要所で決まった」。準々決勝は14年の世界選手権3位、準決勝はロンドン五輪55キロ級2位の相手を転がしてみせた。

 世界選手権にも出たことがなかった22歳が、近年のメダリストばかり破って決勝へ。頂点に届かず悔し涙を流したが「やってきたことは間違ってなかった。東京で金を取れるようにまた練習する」。ロンドン五輪で銅メダル一つを取った後、ここ3年の世界選手権はメダルに届かなかった日本グレコにようやく光が差した。

 (鈴木智行)

 <グレコローマンスタイル> 上半身への攻防に限られた男子レスリングの一種目。腰から下への攻防も認められ、タックル中心の試合展開となるフリースタイルとは対照的に投げ技が多用される。レスリングの起源とされ、五輪では1896年の第1回アテネ大会から実施。現在は59キロ級から130キロ級までの6階級が行われている。日本勢の金メダルは84年ロサンゼルス大会52キロ級の宮原厚次が最後。

 (共同)

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