紙面から

V筆頭の白井、「守り」で崩れ 

男子床運動決勝白井健三の演技=今泉慶太撮影

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 取り巻く空気は、他のどの試合とも違っていた。昨年の床運動の世界王者としてたたえるのか、上位につけた地元ブラジル選手のライバルとして見守るのか、どっちつかずの微妙な雰囲気の中で登場した白井。「緊張はしなかった」という表情に、いつものみなぎる生気がなかった。

 冒頭の連続跳躍に続き、予選で大きく着地が弾んだG難度の「リ・ジョンソン」も手堅くまとめた。金メダルへの秒読みが始まる。誰もがそう思ったところで「シライ2(前方伸身宙返り3回ひねり)」が腰砕け気味になった。

 いったん崩れた美しさは元に戻らなかった。「ラインオーバーを気にしすぎた」。後方、前方と続く連続伸身2回半宙返り。着地でつんのめって2歩前に出た。最後の「シライ/ニュエン」(後方伸身宙返り4回ひねり)も着地が動く。演技を終えて広げた両手をすぐ顔の前で合わせ、観客席に頭を下げた。「あの演技をした時点で負けは覚悟していた」

 今の自分を形作ってきた「攻める演技」を忘れた。「予選で攻めすぎて失敗した。中途半端な調整をしてしまったのが良くなかった」。失敗の多くは、着地からフロアの内側に足を踏み出したもの。減点を恐れる守りの姿勢が、確実と思われたタイトルを遠ざけた。

 「まだ明日がある。明日があることに感謝して気持ちを切り替えたい」。今大会最後の出場となる15日の跳馬では、新技の「伸身ユルチェンコ3回半ひねり」に挑む予定。苦すぎる教訓を、最高の舞台で生かすチャンスは残されている。

 (鈴木智行)

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