紙面から

祖父が沖縄米兵、特別な試合 バスケ・渡嘉敷選手

 一九三センチの長身が鋭いドリブルで駆け出せばコートが狭く見える。十三日(日本時間十四日)にあったリオデジャネイロ五輪女子バスケットボールの一次リーグ最終戦。フランスを破った日本代表のエース、渡嘉敷来夢(らむ)選手(25)=シアトル・ストーム、愛知・桜花学園高出身=は仲間たちとハイタッチし、笑顔をつくった。準々決勝で当たるのは、世界ランク一位の最強「米国」。渡嘉敷選手にとって少し特別な試合になりそうだ。

 「ずっとやりたかったので、楽しみ」。チームとしては避けたかった相手が、渡嘉敷選手には待ち遠しい。代表で唯一、米女子リーグWNBAでプレーしている。そして、米国は自らのルーツがある国でもある。

 会ったことはないし、名前も知らないそうだが、渡嘉敷選手によると、祖父は沖縄の基地で働く米兵だった。基地近くに住む祖母と恋に落ち、父が生まれた。詳しくは聞いていないけれど、まだ父が幼いころに亡くなったらしい。

 五輪イヤーの今年、米軍基地の移設問題と米軍属の刑事事件で沖縄が大きく揺れた。日本人と米国人、沖縄と「本土」の間にひびが走った気がして、心が痛む。それぞれに根を持つ自分に何か、できることはないか、自問した。「結局、バスケ頑張るしか、ないんですよね」

 昨年春、単身米国へ渡って感じたことがある。目の色や肌の色が違い、異なる歴史や文化を持つ人たちが、同じルールの下、平等に楽しみ、競っている。なんだかうらやましい。

 ちょうど七十一年前に終わった米国とのあの戦争。沖縄はずっとそれを引きずってきたかのようだし、争いや差別、そもそも世界はいつだって、ひびだらけだ。

 「平和の祭典」とも呼ばれる五輪。このリオで、フィリピン人の母を持つ卓球男子代表の吉村真晴選手(23)や、父がジャマイカ人の陸上短距離代表、ケンブリッジ飛鳥選手(23)と一緒なのが、ちょっとうれしい。「私たちが格好よく活躍して目立って、日本人が心に持ってる垣根みたいなのをひとつ、とっちゃえたらいいな」

 準々決勝は十六日午後(日本時間十七日未明)。「相手がどこだろうと勝てますよ。(世界ランキング)十六位でも、日本のスピードは世界一なんで」。その名の通り、あきらめなければきっとかなう。頑張れ、来夢−。

(中野祐紀)

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