紙面から

<敗者の矜持> 大きなたこが語るもの

古川の左手の親指の付け根には練習のたまもの、白く膨らんだ「アーチェリーだこ」がある

写真

 左手の親指の付け根には白くボコッと膨らんだ「たこ」がある。この一カ所にしっかり力を込めて弓を押さえるためだ。古川は照れ笑いを浮かべながら「練習でできたことは間違いない。でも、他の選手たちにもありますよ」と言った。

 以前は大学生が1日300本打つのをよそに、倍の600本打ってきた。それが30歳を過ぎ「疲れが抜けにくいから」と450本に減らした。しかし、練習時間は変わらない。朝9時から夕方6時まで、みっちり行う。なぜそんなに練習ができるのか。「僕は逆に『なぜ、みんなはそんなにできないんだろう』と思ってしまう」と首をかしげた。

 心技体。古川は「アーチェリーは心が九十五パーセント」だという。練習量が自信となり、鋼の心を形成しているのだ。だから長年にわたり日本のトップに立ち続けることができる。「僕が他の若い選手に負けるわけない」と32歳はニヤッと笑った。その顔には「練習量が違う」と書いてある。

 4度目の五輪。ロンドン五輪銀メダリストが準々決勝で敗退した。目標には届かなかったが、その過程は間違っていない。誰よりも多く矢を放ってきた。「この悔しい気持ちがあるからこそ、きつい練習も我慢できる」。敗れてもなお、誇りと証しがある。記者が知る限り、他の日本選手には古川のような大きな「たこ」はない。

 (森合正範)

男子個人準々決勝米国選手に敗れた古川高晴(左)=内山田正夫撮影

写真

※ご利用のブラウザのバージョンが古い場合、ページ等が正常に表示されない場合がございます。